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買いたくなるポイントを探る 消費者が心を動かされる言葉とは?「いいもの」をつくれば売れるとは限らない
売り場に溢れる情報 どれだけ効果があるのか?
スーパーマーケットやデパート等、売り場には常に「今、話題の○○」に関する情報がふんだんに溢れている。「今、話題の○○」は、大抵の場合、店舗の出入口近くに山積みにされ、来店客の目にすぐに留まりやすい場所に陳列されている場合がほとんどだ。そんな話題の商品を横目に野菜売り場へと行くと、こちらでも「今、TVで話題!」とのPOPが。どうやらこちらはテレビの健康番組で紹介された食品だ。「健康によい」「○○に効く!」「美容効果がある!」etc...。もちろん、こんな情報に思わず飛び付いてしまう気持ちもわからなくはない。健康番組で紹介された食品が、翌日賑やかなPOPと共に陳列棚の目立つ位置に移動され、数日後にはすっかりブームとなって売り場から姿を消し、なかなか手に入らなくなることも、今まで何度も経験済みの事象のひとつである。しかし、このような安易なメッセージばかりが目につくと一般的な消費者は、メディアやお店に踊らされてしまっているような気にならないだろうか。
一方、別の店の話をみてみよう。
こちらのお店の野菜売り場には生姜が2種類置いてあった。一つは高知県産の小さなサイズのもの、もう一つは中国産のもので高知県産のものよりずいぶんと大きいサイズの上に値段も安い。値段で見るか、それとも産地で見るか。それとも大きさで選ぶのか。こちらの生姜コーナーに添えてあったPOPは、中国産の大きなものには、「魚の匂い消しなどに、たっぷりとお使いください」、一方、高知県産の小さなものには、「香りが強く風味が良いので、薬味に最適です」との表示がされていた。このように書いてあれば、普段中国産の生姜を敬遠している人にも、用途によって使い分ければいいという気づきがあり、いつもと違うものを選ぶきっかけになることも。このようなお店側からのメッセージは気が効いているし、消費者にとってありがたい情報だ。消費者も気持ち良く受け入れるのではないだろうか。
今、お店には非常に多くの情報が溢れている。お店で独自に作った、もしくは売り場担当者が自ら描いた手書きのPOPはもちろん、メーカーから支給されるカラフルな印刷が施されたPOP、またデジタルサイネージが設置され、商品紹介動画やお馴染みのCM が繰り返し再生されていることも珍しくない。お店もメーカーも消費者に一つでも多く商品を手にとってもらうため、あの手この手で情報を繰り出してくるのだ。でもその方法が的外れで消費者の元に届いていないとなると、せっかくの努力も残念ながら水の泡...である。しかし、このような情報過多な時代に一体どんな言葉が消費者に響くというのだろうか。どんな言葉によって心を動かされ、実際の行動に移すというのであろうか。
信頼できる店はいいことばかり言わない
ふだんよくスーパーを活用する人に聞いてみると、「自分が欲しい情報が手に入るお店」「いいことばかり言わないお店が信頼出来る」と言う。
例えば、とある商品の原材料表示を見ると『主原料には添加物を含みませんが、副材料には入っている可能性があります』の文字がある。副材料とはいえ、商品に添加物が入っている可能性があることを表示するのは本来売り手側にはリスクがあると考える方が多い。しかし、きちんとありのままの事実を伝えることで信頼を得ることもあるのだ。「添加物不使用」を声高にうたっている商品は多々あるが、もはやその言葉は消費者の心に響いていないようである。
あるいは、店頭の「朝採り野菜」の表示。今やこれをひとつの売りにしているお店も少なくはない。しかしながら、これは本当に当日の朝収穫された新鮮なものなのか? もしかしたら前日の朝かもしれない、と不信感を抱く消費者さえいるのも現実なのである。朝採りかどうかより、その野菜がいつ収穫されたものなのか、実際の収穫日時を表示して欲しいとの声も珍しくない。新鮮だとか安全だとか、そういうことよりももっと知りたいことがある、というのが消費者側の意見であろう。
他にも、卵の選び方。卵売り場に行くと、鶏卵ひとつとってみても、いろんな種類の商品がある。一番価格の安いお手頃なものから、ビタミン等が添加されたものやいわゆるブランド卵と言われるものも。しかし実際は「殻が白いのと、オレンジ色のものがあるけれど、どっちにしよう? これにはビタミンEが強化、こちらにはヨードが豊富って書いてあるけれど、一体どれほど違うの? 味には差があるの?」といった具合だ。商品の種類が沢山あればある程迷ってしまうと言っても過言ではないだろう。今のままだと価格以外に決め手がないのである。このように沢山の種類がある商品については、商品ごとの特徴(それぞれどのように違うのか)や、こんなふうに食べると美味しい、この料理にはこの商品がおすすめという、もう少し突っ込んだ情報や提案が欲しいのである。このような情報こそが歓迎される情報であり、消費者は待っているのである。
このように売り手側が出したい伝えたい情報と、買い手側が知りたい受け取りたい情報には、まだまだ大きな隔たりがあるようだ。
売り場に様々な種類が並んでいるタマゴ。だが、どれが良いのか消費者にはわかりにくい。
結局は、値段で決めてしまっているのが現状だ。
良さが伝わらなければ良い商品も意味がない
お店の店頭はもちろん、商品自体(パッケージ)にも多くの情報が盛り込まれている。メーカー側はその商品に込めたこだわりを伝えるため、より多くの情報をパッケージに載せようとする。「こんなこだわりの製法で作っています」「新しく開発した、こんな製法で作っています」「この材料で作っているのはウチだけです」と言った具合である。しかしここでもメーカー側が伝えたいことが消費者にきちんと伝わっていないことが少なくない。
例えば、とある漬物を見てみよう。これは「手作りべったら漬け」という商品であるが、パッケージの目立つところに『全糖』という文字が書かれていた。『全糖』とは、原材料にステビアや天草、サッカリン等の人工甘味料を使わず、白砂糖100%使用ということ、上質な材料を使っているということである。しかし、多くの消費者はその意味が分からず、「砂糖をとても沢山使っているのかと思った」「とても甘そうだと感じたけれど、食べてみたらそうでもなかった」との声が寄せられたのだ。スーパーに流通する一般的な漬物の多くは、砂糖と他の甘味料との併用が今も主流であり、「全糖」といえば、漬物業界では最高の材料を使っているという意味なのに、残念ながら一般の消費者には全く伝わっていなかった例である。
このような例は決して少なくない。例えば焼海苔。この焼海苔は非常に味がよく、売れ筋商品のひとつでもある。まずパッケージを見てみると、「酸処理をしていません」との文字が。しかし消費者の多くは、大きく書いてあるにもかかわらず、この「酸処理」の意味がわからない。海苔の作り手の人にじっくりと話を聞いてみると、「酸処理」とは海苔の病気を防ぐために海苔網を酸性の液に浸し、その後、海に戻す作業のことで、「酸処理」を施すと色・ツヤなど見た目はよくなるけれども、本来海苔が持つ香りや味は損なわれてしまうこともあるそうだ。また、酸性の液を使うことで海水の汚染に繋がることも容易に考えられる。
しかし実際の店頭では、このようにじっくりと作り手から話を聞くことは出来ないので、「酸処理」と表示されていてもピンとこないのである。「酸処理」とは一体なんだろう? という疑問を抱えたまま、何となく商品を選んでしまうことになるのだ。これでは商品の本当の価値を知るチャンスが訪れない。しかし、こういう情報こそが消費者にきちんと伝えるべき情報であり、消費者が商品の本当の価値をきちんと知るチャンスなのである。
このように作り手や売り手が伝えたい情報を消費者に正しく伝えるためには、受け手の立場になって情報を見つめ直すことが重要となってくる。例えば言葉を選ぶ際にも業界特有の言葉や専門用語はなるべく使わない等、いわゆる情報の「翻訳」作業が必要なのだ。いいものを作れば必ず売れるというのは大間違い、商品の持つ、真の価値を伝えるためには、中身よりもむしろPOP や表示ラベルが重要なこともある。消費者にとっては、それらも含めて全てが商品であることを忘れてはならない。
まとめ
■売場のPOPに書かれた「今、話題の○○」「健康によい!」などの安易なメッセージは本当に売り上げ増加に役立つのか。
■消費者は商品の特徴、食材のおいしい食べ方、使い方などの詳しい情報を求めている。
■商品の材料や製造方法をアピールするにも、それについて消費者が知らないと意味がない。
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