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イノベーション NEW2020年7月15日

基本を忘れず変化を恐れず 大阪拠点の出版社としての歴史を携え専門分野を極めて歩みつづける!

矢部敬一(やべ けいいち) 株式会社 創元社 代表取締役社長

1892年(明治25年)創業の矢部晴雲堂という書籍小売店に始まり、現在に至るまで、大阪拠点の出版社として長い歴史を刻んできた株式会社創元社。『人を動かす』に代表されるカーネギーシリーズをはじめ、主に心理学等の人文科学系書籍を中心にしながら、大阪、関西に関わる書籍も手がけています。「ベストセラーよりロングセラーを」の精神で、大阪から情報発信し、基本に忠実でありながら時代の変化にも敏感であり続ける極意を探ります。

数々の運命の巡り合わせの中で 育まれてきた文化的な香り

 後に創業者となる矢部外次郎氏は、金沢から大阪に出向き、印刷、製本、書籍出版・販売を行う福音社に入社。時は明治、ヨーロッパ文化がまだ珍しい時代に、福音社が手がけた日本最初のキリスト教定期刊行物は、宗教的な内容以外にも小説や文化を伝える貴重な媒体でした。外次郎氏はその後、矢部晴雲堂を開業しますが、ほどなく福音社の社主が亡くなり、その暖簾を受け継ぐことに。これを機に、卸や出版にも携わるようになり、徐々に規模も拡大していきます。そんな折、1923年(大正12年)に関東大震災が発生。東京に集中していた出版界が壊滅的状態になって危機感が高まり、結果、大阪での出版活動が本格化、出版部門として創元社を創立します。特に文芸分野では、谷崎潤一郎『春琴抄』、川端康成『雪国』、大阪ゆかりの織田作之助『夫婦善哉』等、美しい装丁の本が話題を呼び、人気を博しました(右記資料参照)。1941年に日本出版配給(株)に併合されて、福音社の歴史は幕を下ろしますが、戦後は創元社として、一般教養書や大学の教科書を中心に文芸書等で再出発。その後も、変化し続ける読者ニーズと時代の波をとらえながら、現在に至っています。

専門書とビジュアル本を中心に 一貫してロングセラーにこだわる

 激動の歴史に翻弄されながらも時代に寄り添い、柔軟な思考で前進する姿勢は、脈々と受け継がれてきました。過去に縛られず新しいものに目を向け、ベストセラーよりもロングセラーを!という明確な方針で、出版を基軸にセミナー事業、学会事務局運営、書籍販売といった事業を展開されています。創元社の理念は、「良書永読、読者第一」。現在の創元社を率いる矢部敬一社長によって約20年前に掲げられたものです。「良いコンテンツを、長く発信するのが我々の基本スタンスで、それも読者のためにあるべきという考え方」とのことです。その言葉通り、創元社の出版物の特長の1つが、長く愛される書籍の多さ。代表格が、邦訳500万部突破(2019年1月現在)の歴史的ロングセラー『人を動かす』(D.カーネギー)です。人づきあいの根本原則について語られた実践的な内容は、時代を越えて読み継がれています。
 もともとキリスト教関連書をはじめ、人文科学系の分野、特に心理学関連書も多かったのですが、心理学の第一人者であった河合隼雄先生が関西拠点で活躍されたご縁もあって、臨床心理学に関する専門書の出版も多数。地元大阪に根差した書籍もまた、メインに据えているカテゴリーの1つです。また、一般教養書にビジュアルを加えて親しみやすく工夫し、新たな読者層への発信を行ったところ手応えが得られたため、大型化してビジュアル度を高める動きにもつながりました。さらに自然科学系分野も加えて、図鑑のようにビジュアル中心の書籍の充実も図っているとのこと。最近では、電子書籍として、同コンテンツを異なるメディア経由で伝える手法も「電子出版」と呼んだり、デジタル印刷によるものも加わり、出版の意味する範囲も広がっています。


[3]長年のロングセラー「人を動かす」シリーズ
[4]半世紀ものあいだ非公開のまま眠っていた心理学者C・Gユングの伝説の書物『赤の書』
[5]「なにわなんでも大阪検定」の公式テキスト『大阪の教科書 ビジュアル入門編』
[6]米国の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の衰退を論じた全米ベストセラー『われらの子ども』
[7]美しいイラストと共に語る教養本『翻訳できない 世界のことば』
[8]自然科学分野でも美しさにこだわった

今こそが あらゆる価値観の大転換期! ルネッサンスにも匹敵する大変革

 「創業以来、今が一番大きな転換期でしょう。数世紀分の出版技術の大変革が起きている中で、本質的な転換を迫られています」と語る矢部社長。15世紀、グーテンベルグの活版印刷の発明により、文化が一気に大衆へと広まりました。ルターが宗教改革を成し得たのも、この活版印刷技術あってこそ。世界レベルでは、ここが出版の分岐点です。 日本で言えば、和本から洋本に変わった明治時代。大阪では、1870年(明治3年)創設の大阪活版所が果たした役割も大きかったわけですが、この数世紀分に匹敵する大変革のひとつがデジタル化です。「これだけ長く本に関わっていても、本とは何かという定義は難しい!今や、境目までいくと定義が曖昧になりますから」との発言が印象的でした。もちろん、物理的な定義は一応ありますが、デジタルを含め本というコンテンツのあり方が変化する中、概念としての「本」は、ますます多面的な存在になっています。さらに、「インターネットにつながった時から、考え方の本質が変わりましたね」とも。情報伝達の手段が変わると、拡散スピードやルートも変わり、受け手側の価値観も変わっていきます。いろんなパスが増えて、双方向性の高まりが与えた影響は甚大。紙に印刷された読み物以外のメディアに、情報があふれ始めたことは、実はとてつもなく大きな変革だということです。

広義の「パブリッシャー」として どう発信すべきかを探り続ける

 矢部社長曰く「デジタルツールが当たり前の世の中で、従来の紙の出版物であるべきものとは何か、を探る必要があります」。つまり、紙である必然性、その価値を何に見い出すかということです。例えば、読者が手に直接紙の風合いを感じながら読む喜びが、紙の書籍であるべき根拠だとすると、従来の書籍に近い仕上がりになる品質、かつ少部数で重版ができるデジタル印刷の仕組みも、紙である必然性につながる1つの答えでしょう。さらに、「我々の理念にある読者第一も、突き詰めると、ひとり1人に必要なものを届ける発想に なるんです」と。つまり究極は、One to Oneマーケティング。従来の書籍販売は、多くの部数を印刷して、不特定多数を相手に売る、という世界が主流でした。ところがこれでは、本当に必要な人に届かないことも。特定の読者に向けて特定の書籍をどう知らせ、どう売るか、という視点が必要なのです。最終的には、あらゆる規模のビジネスの、あらゆる業種で、共通してこの視点が求められるのは間違いありません。そんな中、出版社として読者の個別ニーズに向き合い、読者が求めるもの(価値)を先回りして提供する発想こそが重要なわけです。
 日本語では単に出版社と訳されがちな英語のPublisher(パブリッシャー)は、発表する人、公開する人といった意味もあり、それを踏まえて「我々も広く発信していくPublisherとしての意識をもって世の中に情報発信していきたい」という言葉に、矢部社長の確固たる思いを見ました。大阪の地で育まれた文化の香り。それは、明治、大正、昭和、平成、と続く歴史の足跡とも言えるでしょう。そして、さらに新たな歴史を刻もうとしている今、形を変えながらも、創業時の想いを基軸に、普遍的な価値を守りつつ、新たな価値観に対応する姿が、そこにありました。

(株式会社フジプラス)

まとめ

■正統派ビジネススタイルを守り抜き、専門性と、大阪拠点の出版社としての強みを生かす。
■ベストセラーよりもロングセラー!という明確な方針のもと、確固たる価値を築きあげる。
■歴史と伝統を大切にしつつ、新しい価値観に寄り添い、Publisher(パブリッシャー)としての使命を果たし続ける

株式会社創元社についての詳細は、こちらでご覧いただけます。
https://www.sogensha.co.jp/

※所属及び記事内容は、2019年1月当時のものです。

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