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脱炭素で「気候変動」に対応する 可視化とパートナーシップによって実現できる CO2排出量削減に向けての取り組み
GHGプロトコルで全体を把握する
カーボンニュートラルの取り組みにおける温室効果ガス(GHG:GreenHouse Gas)の削減は、もはや全企業において必須のものとなっております。日本においても「パリ協定」に基づき、2030年度には2013年度比で46%削減、そして2050年までにはカーボンニュートラルを目指すことを宣言しております(※1)。しかしながら、2030年度までに46%削減とはいえ、現実的にはどれほどの対策を行なうことで達成できるのかはいまだ不透明です。環境省が発表した2021年度の温室効果ガス排出・吸収量は11億2,200万トンであり、これは2013年度比では20.3%(2億8,530万トン)減少しているとのこと(※2)。ここからさらに、26%以上減少させる明確な施策と可視化が必要となっています。ちなみに、温室効果ガスの内の9割以上がCO2であり、そのCO2排出量のうち企業活動によるものが8割以上であることが分かっています。
この温室効果ガスの排出量を算定し報告する共通手順として、国際的な規準であるGHGプロトコルというものがあります。このGHGプロトコルでは、自社が排出する温室効果ガスだけでなく、特にサプライチェーン全体における排出量を重視していることが特徴です。いわゆるサプライチェーンの上流から下流までの全てを指すのですが、それを大きく3つのスコープ(Scope)に分けて定義されております。
Scope1:直接排出量
事業者自ら直接排出する温室効果ガス。例えば、製造物の過程で、燃焼や生成等で発生するもの。
Scope2:間接排出量
外部から供給されたエネルギーの使用によって発生する温室効果ガス。例えば、電気やガス等の使用で発生するもの。
Scope3:その他の間接排出量
Scope1、2以外で発生している温室効果ガスで、大きくは上流と下流とに分けられる。例えば、上流では原材料(購入物)の製造~配送に関わるものや、関係する人の移動(通勤・出張など)も含まれる。一方、下流では、必要先に届ける際の移動で発生するもの、製品の販売や廃棄で発生するものなどと多岐にわたる。(Scope3は全15カテゴリに分類されている)
よって、Scope1と2については自社努力の範囲ですが、Scope3においては自社努力だけでは対応できず、取引企業間で協調するか、より排出量を減らすためのパートナー変更などが求められます。
CO2排出量の算定方法と可視化
前段にもあるように、CO2排出量はサプライチェーン全体の排出量であり、すなわちScope1~3全ての排出量となります。では、具体的にはどのように算定し可視化できるのでしょうか。
基本の計算式は、【排出原単位×活動量】となります。排出原単位とは、電気であれば1kWh使用あたりのCO2排出量、輸送や廃棄であれば1トンあたりのCO2排出量となります。また、活動量は、例えば電気の使用量、貨物の輸送量、廃棄物の処理量などが該当します。
実際に取り組む際のヒントですが、まず電気やガスなどのエネルギー利用においては、電力会社やガス会社が排出原単位を公表している場合が多いため、その公表数値を引用できます。他にも、例えば何らかの原材料(購入物)を使用して製造などをする場合は、そのメーカーより排出原単位を提示してもらう必要があります。あと、輸送においては、トラックなのか航空なのか船舶なのか、輸送手段によっても大きく異なります。これまでは何らかの手段で届いていたものが、具体的にどの手段で、どれくらいの移動距離であったかを把握できなければ算定することはできません。これは廃棄においても同様で、手段や移動距離の把握が必要になります。
なお、排出原単位においては、基本的なデータベースなども存在します。本来は提供元からの提供値を使用できれば良いのですが、まだまだ提供が進んでいないため、一般社団法人サステナブル経営推進機構が提供する「IDEA」や、国立環境研究所地球環境研究センターが提供する「3EID」を参照することができます。活動量の実測値を得るには、環境が整っておらず困難な場合も多いかもしれません。その場合は、例えば1時間あたりの活動量の平均値を取得し、時間計測によって想定される活動量を算定するなど、まずは今できる方法で可視化に取り掛かってみるという方法もあります。
CO2排出における削減への取り組み
算定によって可視化できると、具体的に何がCO2排出量を多くしているのかなどの課題が見えてきます。当然ながら、目的はCO2排出量を削減することであり、各企業が様々な排出削減の取り組みをはじめています。
例えば、グローバルで大規模なサプライチェーンを抱えるAppleは、2030年までに脱炭素化することをサプライヤーに要請しております。具体的には、200社以上のサプライヤーが風力や太陽光などのクリーン電力の使用を確約し、44か国で展開するオフィス、直営店、データセンターなどでも全ての電力を再生可能エネルギーで賄っているとのことです。
他にも、製造業の中でも一番CO2排出量が多いのは鉄鋼業であると言われております。そんな中で官民協力のもと取り組まれている事例が、製鉄過程で発生するCO2排出量を30%削減する技術の開発です。COURSE50(環境調和型製鉄プロセス技術開発)とよばれるプロジェクトで、具体的には高炉から排出されるガスからCO2を分離・回収し、地中や海中に貯留することで約20%削減できる見込みとのこと。また高炉で不可欠なコークスの代替として、水素を使用して鉄鉱石を還元することで約10%の削減が可能と言われています。
さらにもう1つ例を挙げると、物流業界においても各社の協業によってCO2排出量を削減する動きがあります。具体的な取り組みとしては、拠点の集約で輸送網を効率化する、積載率を高めて一括納品により効率化する、長距離移動においては輸送手段をトラックから船舶・鉄道などを絡めて大量輸送により効率化(モーダルシフト)するなどの動きがあります。
これらの取り組み事例にもあるように、Scope3の実現には他社とのパートナーシップが不可欠であることがわかります。また、どうしても排出量がゼロにできないものにおいては、カーボンオフセット(削減できない排出量に見合う投資等にて埋め合わせる)による対応も視野に入れるべきであるということを付け加えておきます。CO2排出量を削減し、気候変動を止めるためには、これまで実現できなかったことをいかに可能にできるかが大切です。
(株式会社フジプラス)
まとめ
■温室効果ガスの排出量算定においてはGHGプロトコルの国際的規準があり、定義されたScope1~3のサプライチェーン全体の排出量を重視している。
■CO2排出量算定は【排出原単位×活動量】で計算し、係数の把握と活動量の計測によって可視化できるようになる。
■実現においては必ず他社とのパートナーシップが前提であり、創意工夫による削減活動が求められている。
(※1)環境省「日本のNDC(国が決定する貢献)」2021年10月22日
https://www.env.go.jp/earth/earth/ondanka/ndc.html
(※2)環境省「2021年度(令和3年度)の温室効果ガス排出・吸収量(確報値)について」2023年4月21日
https://www.env.go.jp/press/press_01477.html
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