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「包む」安心・安全で課題を解決!農産物の鮮度保持を起点に「食」「農業」のイノベーションの扉を開く
株式会社精工 代表取締役社長 林正規氏
突然ですが、消費者としてスーパーで食材を買う行動は、ありふれた日常のひとつですよね。その中で、特に野菜や果物は、どんな存在でしょうか。スーパーの「一等地」に並ぶ当たり前のものだけに、意識したことがない方が大半でしょう。ましてや、農産物の包装や流通についてはなおさらですね。この当たり前を日々支えているのが、株式会社精工です。100年を超えて歩み続ける、農産物包装業界のパイオニアです。社会構造の転換期とも言える昨今、農業を取り巻く環境変化への対応を迫られる中で、今後何を見据えていくべきか、さまざまなビジネスアイデアや未来イメージについて、林正規代表取締役社長に語っていただきました。
明治から令和までの堅実な歩みが「100年超え企業」としての誇り
1911年(明治44年)、大阪・阿波座にて創業。正規氏の曽祖父にあたる健三郎氏による、株券や文具を扱う活版印刷所が始まりです。後に業務拡張で移転するも、1945年(昭和20年)の大阪空襲で家も工場も焼失。出征していた信男氏(正規氏の祖父)の帰還後、落胆する両親を前に、「これからは復興しかない!豊かになれば果物も食べるようになるはず!」と、果物用木箱に付けるラベルに注目し、農業資材に参入します。当時のラベルは、独特のイラストが魅力。自社製以外も数多く集めたコレクションは、今や貴重な資料です(※下記参照)。木箱が段ボールへ、わら紐がネットへと、農産物の包装資材も変貌していく中、1990年に健男氏(正規氏の父、現会長)が一大決心しました。食べ物は安心安全、安定供給が重要!と、メーカーへと舵を切ったのです。仕入先や協力会社との関係を解消し、自社工場を作りました。その後のバブル崩壊やリーマンショックも、二度の大戦やオイルショックに比べると影響は少ないという感覚だそうです。「本業に専念し、堅い経営を続けてきたから今があるんです」という言葉は、何よりも説得力がありました。

素材の機能研究・開発はもちろん鮮度保持×プラスアイデアで勝負
売り上げの内訳は、農産資材関係80%、一般食品雑貨用その他15%、包装機械とデジタル印刷の合計5%。軟包材と呼ばれるフィルム素材の、特にポリプロピレン(以下PP)が主原料ですが、日本フィルム工業会のPP出荷トン数から計算して、概ね25~26%、4分の1程度のシェアです。PPは、燃やしてもエチレンガスを出さないため、燃えるごみとして捨てることができる素材。また、PET、ポリエチレン、ポリエステルと多様な素材の中でも特に透明度が高くコシがあって、包装資材に適しています。さらに、鮮度保持の機能面の改良に利用しやすいのも特長と言えるでしょう。
野菜は収穫された後も、追熟して成長しようとしますが、根がない状態では単に体力を消耗し、鮮度が落ちていくだけ。そのため、酸素量のコントロールで成長を抑制しつつ、鮮度保持にちょうど良い呼吸量に保つ工夫が欠かせません。さらに、いかに新鮮な状態で消費者に届けるかという視点で重要なのが、「目指すのは『畑と胃袋を最短距離(時間的に)でつなぐこと』。農家にとっては、野菜=畑で採れたての味であって、流通して数日経った味ではありません。農家には鮮度保持の大切さを伝え、消費者にはなるべく早く食べてもらうきっかけづくりをしていきたい」ということ。また、作業効率面で課題のある高齢就農者に対して、包装の効率化策も提案しています。手が届きやすい価格の機械を使い、高機能な包材で包むことで、より新鮮な状態での流通が可能となれば、大きな進化です。
農産物そのものを高付加価値化し指名買い促進も欠かせない戦略
同じ農作物の産地同士が互いにライバル視し、売り場での産地間競争が常態化しているのも、商材としての差別化が進まない要因の1つです。「パッケージを印刷媒体として使い、指名買いしてもらうのが理想。おすすめレシピやキャンペーン応募を付けることで、購買に結び付けたいですね」と語る林社長。わかりやすいのがトマトの例で、「単なるトマト」にならない、すみわけの軸も様々です。スーパーに数多く並ぶトマト、ファミレスチェーンのサラダ用トマト、という内食・外食の7軸もあれば、同じ内食用でも、用途としてお弁当用ミニトマトとフルーツ感覚のミディトマト、調理方法として生でおいしいトマトと加熱でおいしくなるトマトなど、特性ごとに評価されています。日本は作付面積が小さく、生産効率が悪いと言われますが、注目すべきはそこではありません。小ロットで特長的な農産物を作る多様性という強みがありながら、安く買いたたかれる事態こそが問題なのです。付加価値を正しく伝えて「正当な評価」に導くことが、日本の農業の可能性を広げることになるのでしょう。
「差別化の最強形は、キャラクター活用です。実は、初めての国産ミニトマトをきっかけにサンリオさんとのご縁が生まれました」とのこと。販促検討時に、「体重リンゴ3個分、身長リンゴ5個分」設定のハローキティとミニトマトのスケール感がぴったりという話から、おまけとして容器に入れる35種類のシールを作り、おまけつきミニトマトとして話題を呼びました。ここから、サンリオの一次産業メインライセンシーという立場で30年以上。1974年生まれのハローキティは、今や3世代にわたって愛され、バナナ、イチゴ、みかん、えのきともコラボするほどの人気ぶりです。農産物の販促という、ある種視界から抜け落ちていた部分をカバーするのが、パッケージとしての可能性なのだと理解しました。

人気のハローキティとのコラボパッケージの数々。ミニトマトのおまけシール、ハローキティファンにはうれしいシリーズ。
農業を取り巻く環境変化に寄り添い新たな価値競争の時代へ
外国人旅行者の間でも、日本の野菜・果物は好評です。「作り手のこだわりを発信し、市場から正しく評価されれば若手就農家も増え、IT技術活用のスマート農業で生産効率も上がるはず」と林社長。なお、基幹的農業従事者の平均年齢は平成31年で66.8歳(農林水産省データ)と、このままでは新たな農業ビジネスモデルの構築は容易ではなく、国、自治体、農業団体等の支援が必須なのは明らかです。和歌山県・紀の川町直売所のような人気直売所や、大阪にある、岡山県美作市の農産物販売出張所の枠を超えた連携は理想的な事例でしょう。
別角度から、さらに仕掛ける手法としては、野菜の包材(袋)を広告媒体とする企画です。宮崎経済連様のズッキーニの例では、コラボ先は、鋳物鍋で有名なストウブ社。同社が多数保有する料理研究家監修レシピの中からズッキーニを使ったものをセレクトし、レシピが印刷された包材提供が実現しました。こうしたケースでは、コラボ先のブランドオーナーが包材費を負担することで、広告入り包材として農家に安価で提供することも可能となります。デジタル印刷をきっかけにご縁ができたブランドオーナーと、野菜産地・農家・農業団体を結びつけることで新たな扉が開く、ということです。
2019年G20大阪サミットの「大阪ブルー・オーシャン・ビジョン」によるプラスチック排除の流れは、「環境に配慮したPP使用の説明機会を得て、価格競争でなく価値競争の土俵に上がるのは、私たちには追い風」との見解に納得です。環境のみで考えるとプラスチックゼロが理想ですが、生活を便利にするイノベーションだったものを排除するだけでは不便への後戻りです。環境に負荷をかけない素材開発イノベーションこそが、進むべき流れ。さらに言えば、流通過程で20~30%がロスとされる農産物。その包材に関わる企業として、機能面では鮮度保持、コミュニケーション面ではレシピ等の情報提供によって、日本で年間630万tとも言われる食品ロスの削減に貢献できることが重要なのです。「一企業ができることは微々たるものですが、地球規模の課題に向かって一歩踏み出すかどうかの違いは大きい!世界で目指すSDGsもそうですよね」。これから始まる長旅の、最初の一歩こそが肝心だというメッセージとして受け止めました。

「宮崎経済連×ストウブ」という形でコラボしたズッキーニのオリジナル包材。
※フランス生まれのストウブは、世界中のシェフ達を魅了し続ける鋳物ホーロー鍋ブランドです。
(株式会社フジプラス)
まとめ
■ 1911年創業の歴史は、時代を超えて危機をチャンスに変えて堅実に歩んできた歩みの軌跡。
■ 素材特性を活かした素材研究・開発による鮮度保持力向上により、食品ロス削減にも貢献へ。
■ 販促視点で農業を考えることで、売り場で勝負できるパッケージの企画アイデアが生まれる。
株式会社精工についての詳細は、こちらでご覧いただけます。
https://seikou-web.com/
※所属及び記事内容は、2020年3月当時のものです。
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