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マーケティング NEW2025年7月 4日

エンターテインメントがB2B企業を変革する ~訪れたB2B企業クリエイティブ新時代

静から動へ――変わるB2Bマーケティングの表現

 B2Bマーケティングにおいて、動画はもはや単なるセールスツールではなく、企業の存在価値やブランドを体現するメディアとして、戦略の中核を担いつつあります。これまで主流だったテキストや画像、資料中心のコンテンツでは伝えきれなかった価値を、より直感的かつ心に響く表現として動画が補完・強化しているのです。
 近年の調査では、「今後のマーケティング活動において動画はどの程度重要になりますか?」という質問に対し、実に81%のB2B企業が「最も重要」または「重要」と回答。これは同調査における現在の重要性から19ポイント増加しており、その傾向は業界や企業規模を問わず広がっています。(※図表)
 さらに注目したいのがエンターテインメント性です。いかに惹きつけて印象を残すかが、B2Bマーケティング、そしてブランド価値生成における成果を左右する鍵といえるでしょう。本稿では、動画を取り巻く最新の状況や事例を整理しながら、これからのB2B企業に求められる戦略とクリエイティブのあり方を探っていきます。

B2Bマーケティングを取り巻く環境の変化

 誰もがスマートフォンひとつで動画を撮影・公開し、世界中と共有できる時代。YouTubeやSNSの普及により、情報発信は特別なスキルや予算を必要としない民主化の時代を迎えています。加えて、ハイブリッドワークの浸透により、オフィスでも自宅でも、通勤中でも、あらゆる場所で動画を視聴できる環境が整いました。
 こうした背景から、企業の意思決定者も日常的に動画で情報収集するようになり、受け取る情報の質と量は飛躍的に向上しました。特に動画は、短時間で多くの情報を盛り込みつつ、ストーリーや感情を伴って伝えられるため、心を動かす表現方法として、B2Bでも各社が多くのチャレンジをしています。
 また、どのB2B企業も直面している人材確保の問題。各社が苦心している分野ですが、ここにも動画が果たす役割は益々大きくなっています。注目度や信頼度の高い動画は「ここで働いてみたい」と思わせる企業イメージの構築に直結し、生活に馴染みのないB2B企業にとっては会社やその仕事内容を具体的に理解できる重要な接点となります。逆に言えば、動画を軽視すれば、有望な人材の目にも留まらない時代。製品やサービスに留まらず、企業の理念や姿勢など企業自身を伝えることが重視される B2Bマーケティングにおいて、動画という手段は信頼を築く最適な手段といえるでしょう。

B2B動画の潮流と事例分析

 かつてB2Bの動画は、製品紹介や操作説明など、実用性重視の内容が中心でした。しかし近年、その潮流は明らかに変化しています。記憶に残る表現や、共感・好意を呼び起こすストーリーが、企業の魅力を印象づける武器となっているのです。
 最近のこの流れを牽引したのが、Sansan株式会社とTOPPAN株式会社の動画です。俳優の松重豊さんが「それ、早く言ってよぉ」と嘆くSansanのクラウド名刺管理サービスのCMは、ユニークな展開と印象的なセリフ回しが話題を呼びました。名刺情報が社内共有されないという企業の「あるある」をユーモラスに描きながら課題解決へと導く構成は、従来のB2B広告の枠を超え、多くの企業にインスピレーションを与えるエンターテイメントとなりました。
 一方、TOPPANは旧来の企業イメージを刷新すべく「TOPPA!!!TOPPAN」というフレーズを掲げました。自社名に掛けた破裂音のリズミカルな反復と躍動感溢れる映像、そしてクスっと笑える面白さが、視覚と聴覚に鮮烈な印象を残した上で、興味を喚起します。こちらもB2Bとは思えない大胆さで、企業名の記憶定着、そして事業の理解という本質を体現しました。いずれも、従来のB2Bにはなかった表現で、企業の信頼感を築きながら、エンターテイメントの世界観を取り入れた取り組みです。 継続的なブランディングで注目すべきは、東京エレクトロン株式会社です。2011年の東日本大震災後に公開された動画シリーズでは、宮城県大和町の半導体製造装置工場を舞台に、転校してきた少女と彼女に想いを寄せる同級生の成長が描かれています。出逢いは小学生。ふたりは中学生、高校生へと成長し、同じキャストで数年にわたって制作された連作は、まるで一本の映画作品のよう。地域の復興と、半導体という世界に羽ばたく先端技術が交差する巧みな舞台設定は、「ローカルに根付き、グローバルに羽ばたく」という一貫したテーマを丁寧に伝えています。長期的な動画活用が、無形資産としてブランド価値を築いている好例です。
 こうした大企業の事例に加え、近年は中堅・中小企業による創意工夫に富んだ動画も多く見られます。広島のデルタ工業株式会社は「開発vs製造」の社内バトルをラップ形式でユニークな動画を展開。社内の不満をあえてさらけ出すことで「風通しの良さ」をアピールし、テレビの情報番組でも取り上げられるほどの話題に。新潟県三条市の株式会社共栄鍛工所は、優秀な人材の採用を目的にインパクト重視のアニメーションCMを制作。地元限定でCM放映や屋外広告を展開し、地域密着型のクリエイティブ戦略で知名度を大きく高めました。共通するのはやはりエンタメ性。限られた予算でも、地域を絞った集中展開や、アイデアと演出、そして展開計画次第で企業が注目を集めることは可能です。動画は、企業ブランドと共にそこに集まる人を価値化する無形資産構築手段として、企業基盤を強化します。採用難が深刻な中小企業は、企業の認知度とイメージ形成、そして人材登用が今後の行く先を大きく左右するだけに、動画の力を使わない手はありません。

動画を核とするマーケティング活動の要諦

 動画はB2Bマーケティング活動における「最後の出口」のひとつです。ここで言う「出口」とは、単なるコンテンツ制作の終着点ではなく、戦略やブランド構築の成果を目に見える形で表現する最終工程であり、あらゆるステークホルダーとの接点を意味します。企業がどこに向かおうとしているのか、誰に何をどう伝えたいのか、そのすべてが結実するのが動画であり、だからこそ、作る前の設計が極めて重要です。
 出発点は、自社の「現在地」を客観的に把握すること。ベンチャー企業が上場を目指したり、1兆円の売上企業が3兆円を目指すように、全ての企業には「現在のステージ」と「次に向かおうとしているステージ」があります。それぞれのステージに応じて、動画に求める役割も異なります。まだ生まれたてのフェーズであればまず存在を知ってもらう動画が必要ですし、採用や信頼の獲得が課題であれば、それにふさわしい内容が求められます。
 次に大切なのが、3C(Customer/Competitor/Company)の視点で状況を客観視すること。市場や顧客は何を求めているのか?競合はどのような戦略/戦術をとっているのか?そして、自社はどのようなリソースを有し、どう対抗し、どう独自性を打ち出すのか?こうした俯瞰的な視点が欠かせません。特にB2B企業の動画活用においては、意志決定に多くの人が絡むためどうしても社内に意識が向き、自社目線に偏りがちです。しかし、動画を視聴するのは常に社外の人々(顧客、パートナー、求職者、株主)です。競合と似たようなトーンや構成では、良質な動画も埋もれてしまいますから、客観的な視点が必須なのです。そのために、外部の力を借りることも視野に入れるといいでしょう。 さらに重要なのが、マーケティング全体設計の中で動画をどう位置づけるかという視点です。単発ではなく、どのタイミングで、何を誰に届けるのか。それを設計することで、動画は営業活動や広報・人事とも連動し、効果を最大化します。一過性のコンテンツではなく、時間軸を通して積み上げていく動画戦略が必須です。
 そして最後に問われるのが、企業としての表現力です。B2B動画において今求められるのは、信頼性とエンタメ性の両立。B2Bは信頼が前提ですが、だからといって堅すぎては伝わらない。たとえば、生活に馴染みのない製品や技術も、短く、わかりやすく、心に残る形で届けることができる組織になれば、それは企業の競争力そのものになります。情報を正確に、でも親しみやすく。理性と感情の両方にアプローチしながら「自社らしさ」をどう表現するかが問われています。

伝わる企業は、強い。戦略としての動画活用を

 B2B企業は、消費者にとって馴染みが薄く、直接的な体験があまりありません。だからこそ、「どんな企業なのか」「なぜ信頼できるのか」を視聴者の記憶に残す動画は、企業の価値を伝える重要な手段になります。これからの時代、動画は企業の想いを形にし、社会とつながるための大切な言語となるでしょう。複雑で難しい内容や、見せる機会の少なかった現場、言葉だけでは伝えきれない想いも、動画なら一気に突破できます。
 地道なマーケティング設計と戦略的なエンターテインメント。この2つがB2B企業を変革し、企業の成長を後押しすることは間違いありません。自社の魅力をもっと自由に、もっと効果的に伝えるために、動画という選択肢を真剣に見つめ直すときが来ています。

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