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今こそ注目しておきたい重要ポイント 顧客と「正しい」信頼関係を築くためのリテンションマーケティングという視点
顧客との良好な関係を構築するには何が必要で、継続には何が正解なのか?マーケティングや営業部門で、日頃から「施策アイデアを練っては実践!」を繰り返す方にとっては、永遠の課題とも言えるテーマでしょう。そこで今回は、長年にわたってダイレクトマーケティングに携わった経験を活かし、現在は一般社団法人日本リテンションマーケティング協会(※以下JRMA)理事として、対外的発信を中心に活動されている野口健介氏にお話を伺いました。リテンションマーケティングを基軸に、周辺動向や課題、協会の意義や活動、展望等を語っていただきました。
野口 健介 氏
大学卒業後、ダイレクトマーケティング業務の経験を積み、2005年(株)電通ワンダーマン(電通ダイレクト)入社、2012~2016年同社代表取締役。2014年一般社団法人日本リテンションマーケティング協会を発起人として設立、理事に就任(現職)。2017年キックマーケティング合同会社を設立、代表就任(現職)現在に至る。
なぜリテンションマーケティング?協会設立の背景となったもの
マーケティングやCRMの分野では、顧客に対する施策として、アクイジション(新規顧客獲得)とリテンション(既存顧客の維持・育成)が存在します。「両者は密接に関係しているのですが、なぜか新規獲得に注力しCPAを下げるのに熱心な方も多い」と野口氏。さらに「新規獲得後の継続率や離脱のタイミング・理由を突き詰めて調べている企業は少数派。リテンション施策がうまく機能している企業は、売上に占める既存顧客の割合がかなり高く、予実管理も正確でビジネス効率の良さは桁違い!獲得の仕方でリテンション率も変わるので、本来は両者を正しく捉えてこそ、なのです。」2010年代に入っても、広告・販促を領域別に対応する企業が多く、新規獲得から既存維持育成までのシナリオに基づく施策とはほど遠いのが現実でした。日本の急激な人口減(※資料1参照)による限られたパイの奪い合い等の中で、顧客との関係構築の重要度上昇を受け、2014年に一般社団法人としてJRMA設立へ。「リテンション領域のビジネスインパクトを明確化し、お客様とのより良い関係構築に有効な手立ての開拓・進化・深耕のため、この領域の研究・学習を通して、そのノウハウやHOWTOの確立が重要と考えてのスタートでした」。情報がほとんど世に出ていないため、意見交換の場として第三者組織が必要だ!と考えたそうです。最前線で実践する方々の声を聴く「場」を作り、共感者を増やすにあたり、社会的意義や啓蒙的な側面も重視した結果でした。

リテンション領域で考える要点とは?コトラーの「純顧客価値」の思考も有効
リテンション領域は、情報の少なさもあって解釈のバラつきがあるようですが、早くから実践事例がある通販業界などの一部では、成功を左右するのはプランと実施のシナリオ設計だと認識されています。「仮説を立てプランを実施する際、まずは既存顧客の離反状況確認のデータ分析を行い、データから離反のタイミングや要因を抽出、経験値からのインサイトまで含めるので、全体像をとらえない限りうまくいきません」と野口氏。小手先では対応できないからこそ、深いレベルでの情報・思考の共有が必要なのでしょう。リテンションに限らず、野口氏の考えの土台は、「マーケティングとは『企業側の価値の提供と、消費者側の対価の支払いの関係性』。この速度と頻度をいかに高め、企業の収益をいかに高めるか」です。価値については、「近代マーケティングの父」と称されるコトラー氏が唱える「純顧客価値」がわかりやすく、野口氏ご自身も大いに共感されています。

「良い商品なのに売れないもの」の理屈は、この数式で一目瞭然です。商品価値と関連する価値の合計から、様々なコストの合計を引いた「純顧客価値」が、消費者にとっての価値だからです。もうひとつ注目すべきは従業員価値で、顧客に最も近い従業員の対応が影響するということです。販売スタッフ、コールセンターのオペレーター、メールやチャット対応等が該当します。アメリカのシロモノ家電メーカーが、ブランド価値を決める顧客接点を購入者に調査した結果、商品を家に搬入するスタッフの態度との回答が最多だったそう。さらに、今やイメージ価値の評価軸の中に、SDGs等の社会的責任やガバナンスも加わり、カッコいい広告で十分勝負できたのは過去の話。製品価値に偏った価値提供では通用しない時代への突入です。
顧客との関係構築に必要なものがどんどん変化を遂げつつある!
コトラーが提唱する総顧客価値の4つの価値の中で、消費者としての接点は製品価値に偏りがち。もはや商品の良さは大前提であり、社会背景・構造の変化を受け、企業の価値提供・価値訴求における4つの価値のバランスも変わるはずです。これらはリテンションに欠かせない視点ですが、新規獲得信仰は健在で、この現象への見解はこうです。「リテンションは成果が出るまでに時間を要します。最低でも月次決算なので、目の前の数字が欲しい時には、すぐに結果が出るマス広告に流れがちです」。即効性のあるアクイジション(新規獲得)のメリットを実感した過去の記憶と経験が、リテンション後回しの一因のようです。リテンションに対する姿勢は、経営トップのビジネススタンスと直結するのが現実で、例えば同じ100万円購入する顧客でも、1年間で100万円より、10年間で100万円の方が理想だと考えます。なぜなのか?それは、根底に顧客と長くつながることが重要、という思想があるからです。トップに限らず、従業員の文化として、顧客に対して「売る」のではなく、「良い体験をしていただく」という思いがあるかどうか。こういう思想のもとに、リテンション施策を組み立てることが重要なのです。
ビジネス効率は当然考慮しなければなりませんが、徹底してリテンション施策を進めるには、一定期間やり切る覚悟も必要とのこと。その手法の1つとして、「売らない店舗」(ショールーム的)を、会社の思想・文化・価値を提供するリアルな場とし、顧客接点を創る試みも確かに増えています。目先の数字だけでの判断は間違いのモト、という話にも通じますね。「これ良いですよ」という情報を受け、すぐに買ったかどうかの数字を見るだけでは不十分です。同ブランドの別商品を買ったり、1年後に買ったり、情報を得た本人でなく友人・家族が買ったり、SNSへのアップ情報を見た人が買うかもしれません。顧客自らが情報発信できる時代なので、波及効果、周辺効果の力も無視できません。企業がそこまで把握したいと意欲を持つことも、顧客との関係構築に欠かせない要素なのです。
いかに商品の周辺情報を伝え有効な価値提供ができるかが決め手
JRMAとしてリテンション領域の研究の一環で行った実証実験企画は、第35回(2021年)全日本DM大賞銅賞を受賞。行動経済学の「保有効果」の原理をDMに応用し、商品を想起させるクリエイティブを活かしたものでした(※資料2参照)。「これを機に、長期的・多面的に見る機会を作る機運が高まりました。SNSにアップされるような波及効果、周辺効果も計測できれば、リテンション領域がもっと進化するはずです」。「これにしよう」と決める購買行動は、記憶の中から良い印象の情報を引き出してきた結果です。商品価値以外の価値訴求の重要性が高まる中で、商品の周辺価値に関わる「エピソード記憶」は、記憶として留まりやすく、引き出されやすいので最強です。「さっき触れた『売らない店舗』では、だれと行き/何に触れ/どんな接客を受けた、という周辺情報が膨大です。エピソードとしてブランドの記憶として残れば成功!『余分』なものを排除するのは、正解ではないんです」と野口氏。人は、日々「余分」も含め多様な情報から価値判断し、記憶の選別をしているためです。

顧客との関係性として、単に「売ること」がゴールの企業もまだ多いですが、正しいリテンションマーケティング実践のためには、自社商品の先の世界を想像し寄り添えることが肝心です。「理想論では?」という意見もあるでしょうが、明確に「こうあるべき」姿を描く経営者のもとで働く従業員が、理想像に共感することで従業員価値が高まり、結果的に顧客への価値提供に影響をするのも事実。「JRMAとして、セミナーを通じ積極的に情報発信を行っていきます。トークセッション形式で開催したセミナーのように、今後も会話のキャッチボールから発想する機会を作っていきます」。さらに、「お客様に、とことん寄り添う覚悟があるかどうかで、企画・実施の結果も、大きく違ってくると伝えたいですね」という野口氏の言葉に、全てが凝縮されているような気がしました。
(株式会社フジプラス)
まとめ
■今後の社会構造の変化や人口減少等を考えると、リテンション施策の重要性は高まるはず。
■コトラーの「純顧客価値」に着目し、周辺情報の必要性や顧客接点創出の意義を理解すべき。
■JRMAとして、長期的かつ波及効果も含めた広範囲な効果を計測できる手法を探っていく。
日本リテンションマーケティング協会については、こちらからご覧いただけます。
https://j-rma.jp/
※所属及び記事内容は、2021年10月当時のものです。
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