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きっかけとしてのユニバーサルファッション 地域からグローバルへとつながる扉 ライフスタイル起点で生き方をデザインする
見寺貞子(みてら さだこ)氏 大学院芸術工学専攻主任/教授
大学院/ファッションデザイン学科
年齢や体形に関わらず誰にとっても快適な衣服と、その土台となる生活全般(ライフスタイル)という側面から、ユニバーサルファッション研究の第一線でご活躍されている神戸芸術工科大学大学院見寺貞子教授(芸術工学博士)。ファッション=服飾という狭義の視点でカバーできない、社会的課題を解決するための考え方、さらにその先の「人としてどう生きるべきか、どう社会と関わるべきか」という独自のアプローチの極意、今後の可能性についてお話を伺いました。
ファッション都市神戸から 震災を経て発信し続ける意味
神戸市は1973年、全国に先駆け「ファッション都市宣言」を行い、ファッション=「衣食住遊」の新しいライフスタイルと定義し、文化の発信を行っています。明治維新の頃から、時代を切り開くきっかけであり続けたファッションの街神戸に、地域連携を重視する神戸芸術工科大学があります。「デザインの力で人々の暮らしを豊かに。アートの力で人々に感動を与える」を掲げる大学こそが、ユニバーサルファッション研究の見寺教授の情報発信の拠点です。
バブル全盛期に、百貨店の商品本部でヨーロッパブランドの世界観に触れ、ライススタイル提案に携わった後、現在の道へ。その矢先に起こったのが、95年の阪神淡路大震災でした。価値観を揺るがす事態に、「おしゃれなんて何の役にも立たない」と絶望したそうです。教えることすら辞めるべきか自問自答の日々が続くも、やがて明るい兆しが。被災者の方から「おしゃれを楽しめる日常に戻りたい」との声があがり、勇気を得たそうです。同時期に、兵庫県立総合リハビリテーションセンターの院長先生から「体の不自由な方のために、おしゃれな服を考えてほしい」と相談され、難しさゆえに躊躇していたところ、「制限があってもおしゃれしたい気持ちに応えてあげたい」との院長先生の熱意に背中を押されたといいます。体の不自由な方、高齢者の方、被災者の方、様々な制限の中でもおしゃれ心が元気の源になる!それを形にしようと決意した瞬間でした。華やかさや高級感とは異なる、機能性、利便性を追求しつつ、おしゃれ心を満たす、という大転換。ライフスタイルとしてのファッションという同一テーマの中で、パラダイムシフトが起きたわけです。
[2~4は北京にて] [2]シンポジウムでの講演 [3]日本の着物や帯のリメイク作品一例 [4]ショーという形で情報発信 [5]デザイン・クリエイティブセンター神戸「KIITO」でもリメイクの楽しさを発信中
ファッションの可能性は無限大! アジアでの連携は未来への懸け橋
先のリハビリテーションセンターで 多くの協力を得て調査を行い、快適な服作りに必要なデータを得たことが、結果として博士論文にもつながっていきます。96年には、完成した服を皆さんに着てもらう形で、初めてのファッションショーを開催しました。協力者の方の「この私が人の役に立てて本当にうれしい。先生ありがとう!との言葉に、「お礼を言うのは私のほう。でもこれを機に、前向きになれたならうれしい限り」と。その後は、神戸市兵庫区主催の「モダンシニアファッションショー」への協力を続ける中で、その実録とも言えるドキュメンタリー映画 『神様たちの街』(2016年田中幸夫監 督作品)も含め、ファッションの可能性を改めて実感したそうです。1着の服との出会いが、その後の人生さえ変えていく。おしゃれしたら人に見せたい、話したいと思うようになり、自治体や企業が、集まる「場」を作れば出かけたくなり、生きる気力がわいてきます。
新しい取組みには予想外の展開が付き物なので、何をどこまで目指し、何ができるのかが肝心です。大切なのは新しいこと、わかりにくいことほど発信し続け、伝える努力を怠らないこと。ユニバーサルファッションを発信し続けた結果、中国・韓国の大学から講演依頼があったり、活動フィールドも拡大中です。2018年11月には、北京服装学院での高齢社会を考えるファッションショーとシンポジウムに参加。 これから本格化する中国の高齢化問題に向け、一石を投じるものでした。講演タイトルは、「アジア地域の高齢化社会におけるファッションの役割」。ここで行動を共にした学生たちは、年齢、性別、民族、障がいの有無を超えた新時代のユニバーサルファッションの意義はもちろん、国を超えた連携の可能性を体感したことで、未来の発信者となっていくはずです。
誰もが自分事として受け止めて初めてユニバーサルな社会へと向かう
さて、神戸芸術工科大という名称は、人間を工学的に客観的に見た上で、アートやデザインという手段でもって快適にする、というあり方を示すものです。これを、実社会に当てはめると、使う人の将来の生活が見え、笑顔が想像できる商品やサービスにつながるでしょう。「例えば、ユニバーサルファッションの志だけでは成り立ちません。その志を胸に、商品化や仕組み作りをするビジネスにつなげて初めてユニバーサル社会の実現ができるのです」と力説されます。今や、シニアマーケティングが脚光を浴び、シニア向けグッズやサービスの情報発信も盛んですが、当事者を十分理解せず進めて失敗するケースも。表層的、客観的に見てわかった気になっているのも原因のひとつ。何がどう良くなる(快適・便利になる)かを考える時、目の前の事実に想像力を少々プラスする(自分の未来の姿を想像する)だけでも違います。ビジネスに限らず、高齢化に付随する課題を、全世代的課題として受け止める社会でありたいものです。そのためにも、世代間交流の拡大が求められ、ユニバーサルファッションも、今後の社会を考えるキーワードに浮上してくるはずです。先に述べた通り、ファッションは 「衣食住遊」のライフスタイル全般を示す言葉であり、どうすれば誰れもがユニバーサルな暮らしを実現できるか追求すると、高齢者にも優しい社会になる、というシンプルなお話かもしれません。
既成概念を見直す好機!「産官学民」連携で新たな価値を創る
「今こそ、企業が人々の暮らしにどうアプローチしてきたかを振り返り、市民目線で考え直すべきタイミングです」。長年研究を続けてこられた見寺教授の言葉だからこそ心に響きます。今の日本では、モノの品質が良くてかっこいいのは当たり前との認識なので、選ばれるには物語が必要です。さらに、具体的なベネフィットを、直感的にイメージできることも。売れない!困った!と言う前に、目に見えない「価値感」を買っていただく方法を考えるべきなのです。生活を快適にするために、デザインが解決できることは何か、使った人が得るものは何かを考えた商品化です。課題が明確なものはデザインで解決でき、その商品は感覚的に「良いもの」と認識され、買われていくのです。
「産官学民の中の『学』に関わる立場から、さらに言えるとすれば...」という前置きで語っていただいた内容も印象的でした。大学を含め、教育として実践することは、あくまでもモデルケースであり、社会で起きている現実を目の当たりにした時に、モデルケースとして学んだことを具体的にどう生かせるのか考え、企業や自治体(産/官)や市民と協力して何かを成し遂げてこそ意味があると。大学も、企業も、地域(自治体)も、自分たちの枠組みの中だけで考えると、判断を誤ってしまいがちです。単独でできることは限られるので、それぞれの立場で自らの専門性を生かし、専門家同士の連携として大きな成果につなげる大切さを理解しました。「連携で成し遂げたものから派生する『その次』までイメージして動くと、より理想的です。何らかの施策で、あらゆる方が生きがいを見つけ、地域社会での自分の役割を発見し、地域社会と関わるまでを後押ししていきたい」と語る見寺教授。ファッション、デザインという切り口が、生き方までもユニバーサルに進化させるという事実を、しなやかでありながらパワフルに語る見寺教授は、さらにその先を見据えていらっしゃいました。
(株式会社フジプラス)
まとめ
■ファッション都市宣言をした街神戸、大震災を経験した街・神戸から発信し続けることの大切さ。
■ファッションという言葉は、服飾だけでなく、ライフスタイル全般を示す表現として扱うのが正解。
■これからは、産官学民の垣根を超えた連携、国境を越えた連携が、社会的課題解決のカギを握る。
神戸芸術工科大についての詳細は、こちらでご覧いただけます。
https://www.kobe-du.ac.jp/
※所属及び記事内容は、2019年7月当時のものです。
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