平日昼間の本屋で見えたもの
仕事をしていると、なかなか平日の昼間の本屋さんというのをじっくり観察する機会がないものです。立地にもよりますが、都市部の大型店舗にしろ、郊外型の複合型店舗にしろ、普段なかなか行かない「平日昼間」を狙って行くと、「なるほど」という光景を目にすることになります。皆さん既にピンときておられますよね。そうなんです。シニア率が高い、という言葉に尽きます。時々小さなお子さん連れのママたちを絵本コーナーで見かけますが、シニアの存在感が圧倒的です。実際にシニア世代に聞いてみると、「確かに本屋にはよく行く」という答えも多かったのです。ただし、行く理由はバラバラ。「もともと本が好きなので」「好きな球団の月刊誌(予約購入)を受け取りに」「趣味の解説本を探しに」(ガーデニング、写真、旅行)等。でも、注目すべきはこんな意見です。「何となく本屋の雰囲気が好き」「主に暇つぶし。カフェでコーヒーを飲んだり」「お店主催のイベントに参加することもある」。そう、本屋さんは本を買うだけの場所ではなく、そこでしかできない「体験」を求めて通うシニアも増えている、ということです。
本をめぐる環境変化の影響も!
別視点で、こんなことも起きている、というお話も紹介しておきます。民間の書籍調査会社アルメディアは、日本の書店店舗数や売り場面積等の情報を公開していますが、2019年5月時点で、書店店舗数が20年前と比較してほぼ半減しているそうです。数字的に聞くと驚きですが、皆さんの周りでも、「近所のあの本屋さん、いつのまにか無くなってた!」という経験もおありなのでは?かつて主流だった個人経営の本屋さんが減り続け、大型店中心にシフトしているのが最近の傾向です。理由はいくつか考えられますが、購入方法の多様化が影響しているはずです。ここ20年で、ネット通販による書籍購入の一般化、電子書籍の登場等、大きく進化しました。そもそも大前提としては、人口構成比の変化も影響しています。そうなると、気が向いたら近所の本屋さんに足を運ぶ、というこれまでの当たり前が、街の本屋さんの消失によりできなくなりつつある、という視点も重要です。ネットで買うのに不慣れな世代(主にシニア)にとって、本を買うにはお店に行くしかないということ。エリアによっては、本屋さん=わざわざ出かけるところ、なってしまうわけです。
実感と体感を求める意味
そうなると、これまでの本屋さんの役割にプラスαがないと、選ばれないことになります。今や、本屋が本だけ売っていればいい時代は終わり、本+カフェは相性の良さで定着した感もあります。お店の規模によっては、関連する文具や日用品、食品やキッチン雑貨、食器、果てはファッション小物やバッグ類に至るまで、ライフスタイル全般をカバーするセレクトショップの様相を呈しているところも。これもひとつの答えでしょう。ただし、シニアの場合、ある程度必要なモノは既にあって、新しいものにすぐには飛びつきません。一方で、体験型(コト)には、強い関心を抱きます。地元密着情報(歴史やグルメ)に関連した講演会のような催しがその一例。本を起点に体験型ニーズに応える形で、「ここでしか聞けない話を聞きに、是非いらしてください!」というアプローチです。特に大型店舗では、店頭でしか体験できないことに興味が広がる仕掛けを用意して、ファンを増やすべく限定企画も盛りだくさんです。
本そのものも売り方も進化中!
昔からある仕組みですが、最近は特に出版社が月刊誌等の定期購読にも力を入れていますね。買う側も、愛読書は、わざわざ買いに行かなくても届けてもらえて便利、という考え方です。「年間契約でこれをプレゼント!」といった、ノベルティで関心を集めます。例えばシニア女性で重いものを持ち帰るのがつらい方にとっては、お届けとノベルティで二重のメリットです。中には、こだわりのギフト用食品をはじめ、キッチン雑貨からアパレルまで扱う物販まで扱うカタログ機能を一部含む雑誌も。また、若年層向け雑誌から始まった付録人気は、じわじわと雑誌のカテゴリー(趣味関連)も年代を広げ、シニア女性まで巻き込みつつあります。付録目当てだと、欲しい号だけ買う流れになるので、店頭で確かめて買いたくなりますよね。また、直接本の内容を見てから買う傾向が強いのは、小説等の書籍より実用書です。ビジュアル的な共感度合いが決め手となるガーデニング、料理のレシピ本、各種手芸の作り方解説本といったものが該当します。
変化がもたらす新たなアイデア
あるコンビニ大手では、コンビニを「街の本屋さん化」する動きもあるようです。一般のコンビニにはない歴史ものの文庫本や、料理や健康関連の実用書を置くことで、「ネット購入には不慣れだし、遠出するのもちょっと、」というシニアを呼び込む作戦です。自分が見て手軽に買いたい思いに寄り添うとこういう形もありですね。別のコンビニでは、雑誌取り置きサービスも実施されたり、いずれも、「近所の本屋さん」の激減に影響を受けたシニア対策がアイデアのモトになっているようです。また、余談かもしれませんが、「シニア」「書店」と検索すると、シニア世代を対象とするアルバイト募集情報が出てきたりします。リタイア後をイメージしているからなのか、60歳以上としているケースが多いようです。シニアのことはシニアが一番よくわかっている、という強みを生かすためでしょうか。本屋で買う側も働く側も、シニアが主役の座に輝く時代がやってきたのかもしれません。
ココに注目!
今回取り上げたシニアと本との関係については、調べてみて初めて、表面的なことだけではわからなかった現象の意味も浮き彫りになりました。買い方のイノベーション自体は歓迎すべきですが犠牲になる層が出てしまっては不完全な進化です。本は知的欲求や幅広い文化的理解に関わるものだけに、シニアへの配慮は欠かせません。長い人生の中で、リタイア後もまだまだ「知りたい」「学びたい」思いに応えていくためにも、本を買いたいと思った時にさっと買える環境を維持することは喫緊の課題だと思います。
そこで、シルバ―ラボでは、独自の視点でシニアをカテゴライズし、傾向を割り出していわゆるペルソナ、つまりサービスや商品の典型的なユーザー像をまとめたシートを作成しました。vol.19「シニア×本」がこちらです。例えば、この分類をベースに、実際には商材によってさらに絞り込んだり、ペルソナを細かく設定したりしながら販促のシナリオづくりをすることで、より現状に沿った施策が可能になります。
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