Idea4U vol.612022 Spring123過去の作品等の詳細は、こちらでご覧いただけます。 http://www.sarubrunei.com/者による本来的なデザインが必要になります。そしてその多様なデザインをサポートするのがこれからのデザイナーの大事な職能になるんだと思います」。デザイナーの定義の変化とも言えますね。 2021年に、活動拠点を東京から京都に移した理由について伺いました。「いろいろな理由がありますが、一番は渋谷の終焉です。日本にたくさんある街のひとつになっちゃいました。京都市京セラ美術館の仕事で1年間頻繁に京都を訪れたのと重なって、バイバイ資本都市って引っ越しました」と松本氏。事務所候補が複数あった中、最後の決め手は植物園だったそう。「植物園の、とくにベンチの位置が素晴らし いんです。東京で座りたくなるベンチは ほとんどないんですよね。いまは植物園でメール返信してます」。 生活に変化はあったか伺うと「むっちゃ変わりました。東京って〝舞台〟みたいな街で、生活にも演出がされてる感があるんですが、京都では生活がそのまま生活として営まれています。〝デザインは生活〟と言っておきながら生活をちゃんと体現できていなかったんだなと痛感しています。いま改めて、生活とデザインの関係を考え直しているところです」。 仕事の変化という点でも「いろいろと変わってます。場所の違いもありますが、やはりコロナは大きいですね。人々の内面に向かう時間が増えた今、デザインもそれに反応します。広告で言えば、商品そのものではなくその商品にまつわる生活や社会にフォーカスすることが求められるようになりました。これは生活者の手にゆだねられたデザインというものが、みんなが使う言葉のようなものになりつつある状況とも関係していると思います。デザインが伝える情報を人々がより深く読み取るようになって、デザイナーはこれまで扱ってこなかった領域をデザインしないといけないのです」。 デザインがデザイナー以外の手にゆだねられ、誰もが普通に使う言葉のような存在になりつつあること、さらに「言葉は文法や使い方の教育がある一方、デザインはこれからようやく広い視点からの整理がなされる」など、デザインの本質にふれる興味深い話でした。 「近い将来、デザインは〝選ぶだけ〟になります。デザインを選ぶのは、小学生や主婦や営業職、もしくは商品などデザイン対象に近い専門家、などです。デザイナーは小学生や専門家の案内人のような役割になるのでしょう。聞こえは悪いでしょうが僕はマニピュレーターと名付けています。 デザインを選ぶ小学生や専門家は、キャッチコピーの効果や写真の情報性や色の効果や形の形象性を知りません。用紙や印刷やデジタルサイネージの特性もわからないでしょう。マニピュレーターはその職能をフルに生かし、小学生や専門家と対象について掘り下げ思考し、AIの物量では解決できないオペレーション=クリエーション をするんだと思います。これは〝デザインを 生活から考える本来的で幸せなひとつのかたち〟だと思います」という視点は、 松本氏ならでは。 さらに、あらゆる仕事の本質に関わる、「根っこ」の話が興味深かったので紹介しておきます。「仕事によって要求はまちまちです。時代や社会情勢への配慮も重要 です。場所が異なれば意味も大きく変 わります。いやな言葉ですが〝時代と寝る〟必要がデザインにはあります。そんな仕事を続ける中で僕が大事にしていることは〝根っこ=自分から離れない〟ことです。僕の場合、根っこにあるのはやはり絵で、形象は何を語るのか?を一生のテーマにしています。僕世代のデザイナーには同じように考えているデザイナーは多いと思 うんですが、これからは様々な根っこを持つ人々がデザイナーやマニピュレーターになるんだろうと考えてます。楽しそう ですよね」。確かに心に響くお話です。 皆さまも、「会社員」「経営者」等の枠でなく、社会に対して果たす役割を示す言葉探しが、ご自身の「根っこ」の再認識につながるかもしれません。これを機に考えてみると、意識していなかったデザインとの接点にも気付くはずです。(株式会社フジプラス) 1東京TDC賞2021グランプリ受賞作『日本国憲法』(抜粋) 2平成美術:うたかたと瓦デブリ礫 1989‐2019 (京都市京セラ美術館2021/01/23-04/11)松本氏デザインによる「平成の壁」松本 弦人 氏グラフィックデザイナー/一〇〇〇本文庫発行人/DsSs主催BCCKSクリエイティブ・チーフ・オフィサー/Tokyo Type Directors Club 理事東京生まれ。DTP黎明期から、グラフィックデザイン、デジタルメディア、に精力的に取り組む。近年は「BCCKS」「一〇〇〇本文庫」など、グラフィックとデジタルの複合サービスのコンセプト&デザインを多数手がける。ADC賞、TDC賞、Multimedia Grand Prix、日本ソフトウェア大賞、The Best Interactive Awards 他、受賞多数。■近い将来「デザインを生活から考える、本格的で幸せなひとつのかたち」が新たに生まれる。ビジネスとの関係性も変化!デザインそのものを見つめ直すツールの進化がもたらした課題を「思考」するプロとして乗り越えるまとめ■今起きているのは、過去のデジタル化から進化した「創造のアプリケーション化」。■デザインが伝える情報が変化したことで、デザインは言葉のような存在になり始めている。
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