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Idea4U vol.612022 Spring2 ビジネスとデザインは、切っても切れない関係。商品、パッケージ、カタログ、DM、広告、販促キャンペーン等々、読者の皆様も、改めて日常的にデザインに関わっていることに気付いた方もいらっしゃるのでは?ご承知の通り、デザインは単に絵柄やビジュアル面だけの話ではなく、様々なコミュニケーションを前提とするもの。 TDC2021最高賞受賞作『日本国憲法』(TAC出版)ではデザインにとどまらず編集まで手掛けるなど、デザイン領域には収まり切らない松本弦人氏は、それでも「グラフィックデザイナー」を名乗ります。ツールと社会の進化とともに広がり続けるデザイン の役割や意義について、独自の切り口から語っていただきました。 編集、設計、ゲーム制作、出版、ウェブサービスなど、グラフィックデザインの枠を軽々超える松本氏。デザイナーを目指したきっかけを伺うと、「画家である父親に5歳のころから油絵を描かされていま した。過度な教育はやっぱりよくないようで上手いだけのつまらない絵になっちゃって、12歳で筆を折りました、早いですよね。 その経験からなのか、自分の表現ではなく造形や構造の美に強く惹かれていきま した」。グラフィックデザインの領域を超える活動については、「80年代、多くの美大生は広告とレコードジャケットに影響を受けていたのですが、僕は音楽系フリーペーパー『DICTIONARY』『TORA』などのメディアデザインに惹かれました。デザイナーになりたいというよりメディアを作りたいという思いが強かったんです。デザ インそのものが目的じゃなく、デザインで生まれるもの、デザインでよりよくなるもの、というように捉えていたようです」。 1985年、その想いは確信に変わります。 「中目黒に当時の最先端機材を集めた ラボがあって、そこに国産DTPシステム「EZ-PS」がありました。MacのDTPより 少し早い時期です。現在のWORDレイアウト機能よりも劣るプリミティブなものでしたが、世界が変わると直感しました」と松本氏。当時勤めていたデザイン 事務所の仕事が終わるとラボに直行し、 名刺、ステーショナリー、フリーペーパー、 フライヤーなどを徹夜で作り続ける日々が続いたそうです。「プログラマーとの出会いも衝撃でした。彼らは曖昧な言葉は使わず、常に合理的な方法を探り、 なにより、何に対しても勉強熱心でした。 ひとつの仕事、例えば〝お絵描きツール〟の開発が終わると、用紙や筆や色彩や構図についてプログラマーが誰より詳しくなっちゃうんですよね。21世紀のクリエイターはこんな感じなんだろうなと、その時ぼんやりと感じていました」。 なお、人生に影響を与えたものを伺うと、PCを車に積んで現地で取材/出力/出版をする旅行雑誌『MONK』、大阪の巨匠木村恒久氏(1928‐2008)、初めてテレビに自分の名前を呼びかけられたRPGゲーム、という納得のラインナップ でした。 「40年近くDTPツールを使ってきました。 当時、グラフィック技能をまるまるPCに収めてしまった衝撃は今も色あせることな いんですが、もしかするとそれ以上のことが、今まさに起きているのかもしれません。80年代に起こったことは〝技能のアプリケーション化〟でした。美しい線を引く技術、文字を並べる技能、写真現像や製版のノウハウなどを次々とデジタル化しました。たった今起こっていることは〝創造のアプリケーション 化〟です。現在のグラフィックツールは、ユーザーが全く想像しえない形態を、完璧なかたちで創出してしまいます。シン ギュラリティはグラフィックツールに限ればすでに起きていると言えます」。では、デザイナーは必要なくなるのかと伺うと、返ってきたのはこうです。「いや、今以上に必要です。そしてこれまでのデザイナーとはその職能が大きく異なるんだろうと思ってます。簡単に説明しますね。デザ インとは生活です。人類最初のデザイン って〝仕切り線〟だったと僕は思ってます。 食物と薬草や住居と墓場を区分けす る線。線が必要と考えたのは様々な生活を営む人々です。一本の線は誰でも引くことができましたが、形や構造が複雑になってくるとそれは専門家の仕事になります。技能と創造がアプリケーション 化されたいま、線を引く=デザインは専門家から生活者の手に戻されました。これからは、子供デザイナー、家事デザイナー、営業デザイナーなど、様々な生活BCCKS [https://bccks.jp/]の出版フローを利用した、1000頁の紙と電子の文庫シリーズ。一〇〇〇本文庫発行人として手掛けた最初の5冊資料編集者としての実績例デザインを使ってメディアを作る!確かな思いを築き上げた背景ツールのあり方の劇的変化デジタル化から生まれた世界テクノロジー×メディア×社会デザインはもう言葉のようなもの グラフィックデザイナー松本弦人的視点

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