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視し、具体的なカスタマージャーニーを描き、どう実践するか。顧客目線でのストーリーづくりが重要なのです」 と柿尾氏。また、「新規顧客獲得策の比重が依然として大きい中、今こそ既存顧客対策中心への転換期ではないか」とも。現に、1つ先を行く一部の通販会社では、新規対策の広告費を減らし、既存対策に予算を割く傾向にあるそうです。当然、顧客の自然減に対する新規対策も必要ですが、要はバランスと手法の問題。こんな話もあります。初回購入特典をマスメディアで広告展開するとロイヤル顧客の目にもふれるため、同時にロイヤル顧客向けDMで特別オファー対応をしておけば、広告を目にしても不満どころか逆に優越感なのです。「私は大切なお客さんとして扱われている」と。一方で、2017年ノーベル経済学賞で注目された「行動経済学」にもヒントが。意思決定には「非合理的」な心理バイアスがかかるという話です。「なぜかわからないけど買ってしまう感情的な消費」があるからこそ、通販でのコピー表現は、感情に訴える、つまり誘惑力がポイント。正しく誘惑できる表現力を磨くことが、買いたい気持ちを後押しするカギになります。目先の利益に惑わされず長期スパンが全ての基準 通販事業の多様化が進む今だから こそ、忘れてはいけない事実があります。顧客データに基づく施策が重要とはいえ、それを元に顧客と向き合う「人」と「人」なしに信頼関係は成り立たない、ということ。既存通販では特に、数字上の合理性だけでなく、人間らしい感性が有効です。顧客への想いに沿ったタイミングの良い商品企画は、必ず心に響きます。「人」と「人」とのアナログな対応の裏付けはデジタル(集積データ)である、という構造です。超高齢社会日本では、移動が困難で買い物もままならない人口が増えていきます。通販市場自体は拡大し期待も高まりますが、全産業が通販に参入できる時代に既存通販が生き残るには、立ち位置や強みを明確にすることが不可欠です。あれもこれも、目先のサービスで客寄せ、という発想では、後々クレーム対応のコストで高くつきます。だからこそ、これまで培ってきた「人」と「人」との関わりこそが最大の特長だ、と明言できるのは強いわけです。柿尾氏いわく「顧客中心主義とは、『お客様は神様です』ではなく、顧客にいかに良い経験をしてもらうかを考えること」。さらに、「当社にとっての顧客とはこういう方、という定義付けをした上で、何を提供していくのかを明確にすべき」とも。日本は、今後ますます、物流を含め、人手不足に起因する高コスト体質国になります。良い商品を提供することで、良い顧客との長期にわたる良好な関係を構築し、それが結果的に社会問題の解決を手助けすることになるならば、通販事業の可能性は、ますます広がっていくはずです。(株式会社フジプラス)1『通信販売はどこへ行く―いま、通販の構造が変わる』〈繊研新聞社〉 柿尾正之 2 通販「不況知らず」の業界研究』(新潮新書) 石光勝 柿尾正之 3「通販研究会」(通称「柿尾会」)のセミナー風景132通販研究会の 活動についての詳細は、 こちらでご覧いただけます。https://tsuuhankenkyukai.org/まとめ■ 長きにわたって通販業界とともに歩んだ実績から、独自の視点で情報発信。■ 時代が変わっても、「人」と「人」との 正しい信頼関係づくりが基本。■ 今が通販における顧客施策の転換期。正しい意味での「顧客中心主義」への シフトが必要〔著書〕 『通販~不況知らずの業界研究~』(共著:新潮社)等多数。〔主な所属学会及び社会的活動等〕 日本ダイレクトマーケティング学会理事、日本広告学会〔大学講師歴〕 早稲田大学大学院商学研究科客員准教授。関西大学大学院商学研究科、上智大学経済学部、 駒澤大学GMS学部、 東京国際大学商学部、等の講師(非常勤)。柿かき尾お正まさ之ゆき 氏Profile1954年 千葉県生まれ。大学卒業後マーケティング会社にて小売業・外食産業等のリサーチ・コンサルティング業務を経て1986年4月、公益社団法人日本通信販売協会(所管:経済産業省)に入局。主任研究員、主幹研究員を経て、理事・主幹研究員。2016年6月 退任。3Idea4U vol.442019 March
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