idea4u_vol43
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75864伝える手法も「電子出版」と呼んだり、デジタル印刷によるものも加わり、出版の意味する範囲も広がっています。今こそがあらゆる価値観の大転換期!ルネッサンスにも匹敵する大変革 「創業以来、今が一番大きな転換期でしょう。数世紀分の出版技術の大変革が起きている中で、本質的な転換を迫られています」と語る矢部社長。15世紀、グーテンベルグの活版印刷の発明により、文化が一気に大衆へと広まりました。ルターが宗教改革を成し得たのも、この活版印刷技術あってこそ。世界レベルでは、ここが出版の分岐点です。 日本で言えば、和本から洋本に変わった明治時代。大阪では、1870年(明治3年)創設の大阪活版所が果たした役割も大きかったわけですが、この数世紀分に匹敵する大変革のひとつがデジタル化です。「これだけ長く本に関わっていても、本とは何かという定義は難しい!今や、境目までいくと定義が曖昧になりますから」との発言が印象的でした。もちろん、物理的な定義は一応ありますが、デジタルを含め本というコンテンツのあり方が変化する中、概念としての「本」は、ますます多面的な存在になっています。さらに、「インターネットにつながった時から、考え方の本質が変わりましたね」とも。情報伝達の手段が変わると、拡散スピードやルートも変わり、受け手側の価値観も変わっていきます。いろんなパスが増えて、双方向性の高まりが与えた影響は甚大。紙に印刷された読み物以外のメディアに、情報があふれ始めたことは、実はとてつもなく大きな変革だということです。広義の「パブリッシャー」としてどう発信すべきかを探り続ける 矢部社長曰く「デジタルツールが当たり前の世の中で、従来の紙の出版物であるべきものとは何か、を探る必要があります」。つまり、紙である必然性、その価値を何に見い出すかということです。例えば、読者が手に直接紙の風合いを感じながら読む喜びが、紙の書籍であるべき根拠だとすると、従来の書籍に近い仕上がりになる品質、かつ少部数で重版ができるデジタル印刷の仕組みも、紙である必然性につながる1つの答えでしょう。さらに、「我々の理念にある読者第一も、突き詰めると、ひとり1人に必要なものを届ける発想になるんです」と。つまり究極は、One to Oneマーケティング。従来の書籍販売は、多くの部数を印刷して、不特定多数を相手に売る、という世界が主流でした。ところがこれでは、本当に必要な人に届かないことも。特定の読者に向けて特定の書籍をどう知らせ、どう売るか、という視点が必要なのです。最終的には、あらゆる規模のビジネスの、あらゆる業種で、共通してこの視点が求められるのは間違いありません。そんな中、出版社として読者の個別ニーズに向き合い、読者が求めるもの(価値)を先回りして提供する発想こそが重要なわけです。 日本語では単に出版社と訳されがちな英語のPublisher(パブリッシャー)は、発表する人、公開する人といった意味もあり、それを踏まえて「我々も広く発信していくPublisherとしての意識をもって世の中に情報発信していきたい」という言葉に、矢部社長の確固たる思いを見ました。大阪の地で育まれた文化の香り。それは、明治、大正、昭和、平成、と続く歴史の足跡とも言えるでしょう。そして、さらに新たな歴史を刻もうとしている今、形を変えながらも、創業時の想いを基軸に、普遍的な価値を守りつつ、新たな価値観に対応する姿が、そこにありました。(株式会社フジプラス)まとめ1矢部敬一(やべ けいいち) 株式会社 創元社 代表取締役社長 2社屋外観 3長年のロングセラー「人を動かす」シリーズ 4半世紀ものあいだ非公開のまま眠っていた心理学者C・Gユングの伝説の書物『赤の書』 5「なにわなんでも大阪検定」の公式テキスト『大阪の教科書 ビジュアル入門編』 6米国の社会関係資本(ソーシャル・キャピタル)の衰退を論じた全米ベストセラー『われらの子ども』 7美しいイラストと共に語る教養本『翻訳できない 世界のことば』 8自然科学分野でも美しさにこだわった『世界で一番美しい 元素図鑑』132株式会社創元社についての詳細は、こちらでご覧いただけます。https://www.sogensha.co.jp/■ 正統派ビジネススタイルを守り抜き、専門性と、大阪拠点の出版社としての強みを生かす。■ ベストセラーよりもロングセラー!という明確な方針のもと、確固たる価値を築きあげる。■ 歴史と伝統を大切にしつつ、新しい価値 観に寄り添い、Publisher(パブリッシャー)としての使命を果たし続ける。3Idea4U vol.432019 January

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