5Idea4U vol.212015 MayWEBビジネス最前線 どの業界にも言えることですが、ビジネスで大切なのは、「お客様視点」です。本で言えば、読者が求めていることを提供すること。さらに、出版側からすれば著者はお客様です。であれば、お客様のコンテンツを大切に扱う必要があります。そこで、本を作る側は、お客様が表現するツールとして、どんなサービスを与えていけばいいかを考えていくことが求められます。 私は、出版業界で、IT書籍のバブル(1990年代後半)とビジネス書籍のバブル期(2008年前後)を見てきました。出版社が利益を追求するあまり、本は粗製乱造され、どれをとっても同じようなことしか書いていない類書が本屋に並びました。また、競争ゆえに本の価格破壊も起こっていました。その結果が、現在の出版不況に結び付いています。自分たちだけの利益を第一にしてしまったために、結果として顧客である読者や著者のことをぞんざいに扱ったことになってしまったとも言えるのです。 そこで、私は、電子書籍出版をターゲットにしてビジネスを始めました。私の最大の目的は、著者の方が、質の高い本を書くことをサポートすることです。人はみな、人生経験の中から素晴らしいものを持っています。誰にとっても伝えるべきものはあり、価値ある情報をどんどんと後世に伝えていくことは、もともと私たちの使命です。それらを、本を通してどのように表現していくのかというコンテンツ作りの部分を私は重要視しています。特に、今後は、規模が拡大していく電子書籍市場の求められるのは、コミックではなく活字による電子書籍の普及です。私は、人々のセルフパブリッシングをどんどん推奨していきたいと考えています。 すでに、このセルフパブリッシングを推奨するサービスがいくつか存在します。例えば、Amazon kindleでは「kindleダイレクト・パブリッシング」、楽天では、「楽天koboライティングライフ」といったものです。また、∞ブックス(http://mugenbooks.com/)では、書いた原稿をアップするだけで、コストをかけずに電子書籍あるいは紙の本の出版を可能にするサービスを始めています。これからは、個人の活動を支援するサービスがどんどんと増えていくでしょう。 ここまでくると、もはや電子書籍出版は、これまでの出版とは、まったく異なるタイプのものになります。電子書籍をビジネスに活用してくならば、これまでとは違う視点で、新しいサービスとして考えていく必要はあるでしょう。 ポイントは、もはや敷居が低くなった出版に対して、これからセルフパブリッシングを行いたい個人あるいは団体や法人が求めるサービスは何かを知ることです。 私のところも、電子書籍の制作・出版ルートをかかえていますが、もはや個人がコストをかけずに出版できる体制が整った以上、著者の希望に合わせたサービスを取り入れながら、著者のコンテンツ作りのサポートをしていきたいと考えています。 また、いくら電子書籍出版が主流になっても、紙の出版がなくなるわけではありません。これは、コンピュータの普及時のことにさかのぼって考えてみるとわかりますが、どれだけパソコンで作業をこなして便利になっても、紙の使用が減ったわけでもなく、会社の残業がなくなったわけでもありません。便利になっても、最新のものにすべて変わることはありえないのです。ですから、電子書籍が普及しても、紙の本の需要がこの先無くなるとは考えにくいです。表現するツールが紙から電子に変わっていっても、人々の伝えたい思いは、大昔から変わらず、これからも不変でしょう。人々の思いを伝えるツールとして、古いものと新しいものを共存させていくことが、これからの時代を生き抜いていく鍵ではないかと考えます。傍嶋恵子でんでんむし出版 代表兼出版コンサルタント http://denden-pub.jp電子書籍市場で足りないものとは?新しい媒体と古い媒体の共存が鍵まとめ■電子書籍業界では、従来の出版ビジネスの方法は通用しない。■誰もが著者になれる時代に必要となるサービスを考えることがビジネスのポイントである。■新しいものと古いものとの共存が一つのキーになる。Amazon「kindleダイレクト・パブリッシング」のサイト
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