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3Idea4U vol.132014 JANUARYまとめ産直から見える売りのヒント こうした取組みを、上條正義教授は、「消費者が、何を買うかではなく、誰から買うかを選ぶようになっている時代にふさわしい、ものづくりビジネスの新しい形」と評する。 提供する商品の質や機能の素晴らしさについては、各メーカーがしのぎを削って競い合ってきた結果、現在では、その優劣は簡単にはつけられない状況になっている。その中で、出来上がった商品ではなく、それを作り出すプロセスにおける、情報や意見の交換、作業体験の共有などが顧客満足度を高める大きな要因になっている、と上條教授は話す。特に住宅のような耐久消費財の購入に当たっては、施主=消費者は、誰と共に創るか?共に創るに足る信頼の置ける相手(会社)は誰か?――という点から発注先を選ぶようになってきているというのだ。 そして、環境との共生の時代にふさわしい「信州の木で信州の家をつくる」という目的・理念の現代性。それを実現するプロセスにおける豊富な意見交換や共同作業の場の提供。そして完成後の長い年月にわたるサポートなど――をセットで提案し、共に実現していこうとしているフォレストコーポレーションの家づくりの取組み全体が、まさに、施主を安心させ、自社を「共に家を創る仲間」として選択してもらえるような、マーケティング戦略にもなっているというわけなのである。 こうした家づくりは、大量生産・大量消費の時代より以前に、日本で行われていた家づくりの形だったともいえる。信頼できる大工の棟梁の下に、腕の良い左官や塗装屋、屋根屋などの職人がそろい、施主の側は親族や地域の人々の力を借りて皆で家を建てる。そんな「ものづくりのコミュニティ」が作り出されていたのである。いわば、それを21世紀の現在において再構築する試みが、「新たな感性価値の創造」という言葉に集約される新しいものづくりなのである。 もちろん、このような性格の取組みであることから、情報発信・PRの手法も従来の住宅会社の宣伝方法とは異なってくる。 出来上がった商品の質や機能を、しゃれたコピーをつけてかっこよく宣伝するという陳腐な方法では通用しない。“コミュニティによる共創のプロセス”としての家づくりを、その目的や時代性、素材や技術の優位性・特性・歴史、それを担って進める人々の個性や人間性などを含めて、物語として描き出し、訴えていくことが重要になるのである。そして、このことは、広告媒体の創造者である広告プロダクション や印刷会社などが、自ら、この「ものづくりのコミュニティ」の一員になることなしには実現不可能なのである。 こうした取組みは、マーケティング理論で言えば、不特定多数を対象としたマス・マーケティングではなく、特定の共通項を持った対象を選定したセグメント・マーケティングの範疇に含まれるのかもしれない。 しかし、出来上がったものを誰にどう売るかというアプローチではなく、誰と誰が一緒になり、どのようにものを創り出していくかというアプローチから取組み全体が構想されているという点では、もはやマーケティング論の範疇を超えた、その先にある、新しい生産と消費の関係づくり、「ものづくりのコミュニティ」づくり、すなわち新しい地域社会のしくみづくりへの道筋を示すものなのかもしれない。毛賀澤 明宏(株式会社産直新聞社 代表取締役・編集長/地域コーディネーター)信州産の無垢の木をふんだんに使った工房信州の家。信州産木材の使用率は85%にも及ぶ。新築を記念して、珪藻土の塗り壁に手形を入れる家族も多い。■「何を買うか」ではなく、「誰から買うか?」「誰と創るか」がカギを握る。■ものづくりのプロセスを共に進めることが新たな感性価値を生む。※長野県版の新聞「産直新聞」(季刊)、全国版の雑誌「産直コペル」(隔月刊)を発行。直売所・地域おこしのサポートも多数行う (連絡先 ☎0265-82-1260 HP:検索→産直新聞)古くて新しい〝ものづくりのコミュニティ〟セグメント・マーケティングの先にあるもの

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