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2Idea4U vol.132014 JANUARY本年、筆者は、以前より付き合いのある長野県の住宅建築会社㈱フォレストコーポレーションと、信州大学繊維学部繊維・感性工学系の上條正義研究室との連携をコーディネートした。 一方は、「信州の木で信州の家をつくろう」というテーマを掲げ、長野県産材を地元に供給するための天然乾燥ストックヤードを拠点にして、長野県内で年間約100棟の注文設計住宅を提供している建築会社。ブランド名は「工房信州の家」。他方は、いまや日本でオンリーワンとなった「繊維学」と名の着いた学部で、古くからの繊維素材や最先端の樹脂材料などの活用法や付加価値を高めるための研究を進める研究者。 この両者の出会いは、住宅と繊維という素材の違いを超えて、消費者・利用者と生産者・作り手の双方を巻き込んだ“ものづくりのコミュニティ”を創出する新たな試みを産み出した。「これだったら買いたい」という商品の感性価値を高め、確実で安定的な顧客層を獲得するための、新しい生産と消費の関係づくりの取組みへと発展しつつあるのだ。 その模様は、まもなく両者の共著による単行本で広く社会に公表される予定である。 フォレストコーポレーションが手探りで創出し、上條教授が感性工学の視点から「感性価値を高めるための具体的な取組み形態」として注目しているのは、端的には「自分の山の木で自分の家をつくるプロジェクト」と呼ばれる取組みである。 輸入木材全盛の時代が長く続く中、森林県長野でも、里山も奥山も、ともに荒れ果ててしまった。間伐もされず、伐り出せば建材などに使用可能な木も放置され、自分の山の樹木の成長状況を知らないどころか、どこに山の境界線があるのかさえ定かではない山地主も多くなってしまったというのが実状だ。 そのような中で、先祖が植えた木を使って、家族の歴史を刻んだ家を創ろう、そうすることで自然資源の循環・地球環境の保全にも役に立とう――というのが、このプロジェクトの目的だ。 そのために、具体的には、「山仕事師」と呼ばれる専門家とともに家族総出で山に入り、使う木を選び、伐採作業なども手伝う。建築工事の最中にも、建築会社の社員や大工・左官などの職人を手伝って家づくりに汗を流す。完成後も、無垢の木のフローリングやウッドデッキ、薪ストーブなどの手入れを家族の行事として行っていく――こうした家族の家づくりの作業を通じて、自分の家を、家族総出の家づくりの物語=思い出が詰まった宝物にして行くことを目指す。それが「自分の山の木で自分の家をつくるプロジェクト」の全体像である。そのためにフォレストコーポレーションは最大限のサポートをしようというのだ。 もちろん施主の側にも、いろいろな条件・環境がある。自分の山を持たない人には、他人の山で柱や梁などの構造材用の木を選ぶシステムを用意したり、手作り仕事が好きな人には、壁塗りや家具作りなどの機会も提供する。薪ストーブオーナー向けに、家族で薪作りをする場を提供したりもする。 要するに、「家づくり」のプロセスに、施主とその家族に積極的に参加してもらい、建築会社の社員や職人、またそれに関係する多くの人々でサポートして、「家づくりのコミュニティ」を作り出していこうというのである。産直から見える売りのヒント施主が伐採作業も体験する。家族で伐った木の年輪を数える。木造りの家と感性工学との出会い感性価値を高めるための取組み感性価値を高める〝ものづくりのコミュニティ″セグメント・マーケティングの先にあるもの〈関係団体プロフィール〉■株式会社フォレストコーポレーション 長野県伊那市西春近3005 ☎0265-72-2088■信州大学繊維学部 繊維・感性工学系 上條正義研究室 長野県上田市常田3-15-1 ☎0266-21-5300

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