- 3 -供するID管理・認証サービスもそのひとつで、金融機関だけでなく、マイナンバーなどにも関連する公共性のある取り組みです。本人確認に関するデジタル証明書をスピーディにやりとりでき、銀行の枠にとどまらず、新しい社会インフラに広がっていくものです。鳥巣 私はもともとITアナリスト出身ということもあり、市場戦略調査、英語でいうとマーケットインテリジェンス、それとエコシステムの拡大という2つのミッションをもっています。例えば、生成AIに関して、新規事業に関わる分野は当然ながら、営業力アップ、人事、労務、そして経営につながるような生成AI活用方法などについて市場調査を行うような形で、知的資産を高める活動をしています。また、エコシステムという観点では、今われわれが推進しているオープンイノベーションを通じて外部も含めた各所との協業を推進しています。今回の映像制作における「生成AIと人との共創 」というテーマは、生成AIの可能性を示唆するものとして興味深く取り組ませてもらいました。——映像作品を完成させて公開するというゴールは最初から明確にあったのですか。清水 はい、そうです。私たちの進むべき道や意志を、時代のトレンドとなる技術を用いて表現しようと考えた末、生成AIと人による映像作品という手段に落ち着きました。そうはいっても私たちはビジネスを創る立場であり、クリエイターではないので、どこまでクリエイティブな取り組みができるのかというのは大きなチャレンジでした。金融事業を超えてテクノロジーを使いこなす企業であることを広めていくために、映像制作の従来の手法をなぞるのではなく、新しいテクノロジーをいかに使いこなすかというプライドをもって、映像を生成することを重視しようと。まず、そういった制作の目的を明確化するところから始めました。——生成AIに任せる部分と人が介在する部分の境界線は、どのようにして決めたのですか。鳥巣 生成AIはいわば「土管 」のようなものです。入り口にいろんなプロンプト(指示)を入れて、生成されたものを出口から取り出す。簡単に言えばそんなイメージです。土管の中で起こる工程は人が介在しなくてもいいので、楽ができる半面、コントロールが利かない難しさがありました。——データのインプットやプロンプトを入れるのは当然、人が行うわけですね。鳥巣 そうですね。そのため、土管にプロンプトを入れる前に、SMBCとしてデジタル社会にどう向き合いたいのかをプロジェクトメンバー間で共有し、理解を深めてから取り組むことがとても重要でした。そこに時間をか け、じっくり詰めてから制作に取りかかったと記憶しています。——「オズの魔法使い 」というモチーフはどのようにして出てきたのですか。鳥巣 協力を仰いだ映像クリエイターの江夏由洋さん(マリモレコーズ)のアイデアです。なじみのある話で受け入れやすいし、原作はパブリックドメインとなっています(注1)。見る人が共感できる上に多方面に配慮されたモチーフだったので、私たちもすぐに賛成しました。やはり生成AIではなく、知見や経験が豊富な「人 」だからこそ、ひらめいたアイデアではないかと今でも思います。清水 江夏さんによれば、私たちとの話し合いを通じて知ったデジタル戦略部の多様なメンバーが、「オズの魔法使い 」の登場キャラクターに置き換えられると思ったそうなんです。私たちから江夏さんにインプットした情報が、彼の頭の中で優れたアイデアに翻訳されたのですね。——人によるインプットが熟成された時点で「ひらめき 」を創発したということですね。まさにクリエイティブですね。生成AIと人の境界、現時点での役割分担がよく表れているエピソードです。鳥巣 映像の持っている世界観、見る人がどう受け止めるかといったディテールも、江夏さんが細かく調整して完成させたものです。——世界観はプロンプトだけでは創れないということですね。生成AIが得意なこと、人でなければできないこと
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