Idea4U vol.722025 Winter では、軸を意識しながら「いいデザイン」をつくるとは具体的にどういうことなのか、制作の準備段階から完成までの過程に沿って考えてみましょう。特に注目すべき3つの段階は「ヒアリング」「プレゼンテーション」「ブラッシュアップ」です。 案件がスタートすると、まずはクライアントに対してデザイナー側がヒアリングを行います。ヒアリングと言っても、ただ聞いているだけでは本当の課題は見えてきません。ここではクライアント自身も気付いていない潜在的なニーズを引き出し、デザインの軸を捉えることが重要です。そのためにはオリエンシートを活用するのも手段の一つ。販売時期やターゲット、コンセプトなどを1つのシートにまとめて可視化することによって、デザインの目的を双方の間で明確に認識することができます。もし事前情報のみで概ね方向性が見えている場合は、制作物のイメージラフや参考資料を用意することで、よりスムーズに進められるでしょう。 ヒアリングで得た情報をもとにデザイナーが制作を行うと、次にクライアントにプレゼンテーションを行う段階に進みます。ここでもし複数案を出したいならば、コンセプトに対するデザイン的アプローチがそれぞれ異なるものを提案しましょう。色や書体などの違いのみでパターンを出してしまうと、「軸に沿っているかどうか」という本来の基準ではなく、単なる好みや印象だけで判断されてしまう可能性があるため注意が必要です。 ベースが決まった後は、双方でやりとりを重ねてデザインをブラッシュアップしていきます。その過程で、さまざまな意見やフィードバックが集まることがありますが、ここでも意識すべきはデザインの軸です。 例えば、植物を使った天然由来の化粧品のパンフレット制作、という状況であると仮定します。ナチュラルで環境に優しいブランドイメージを伝えるために、自然を連想させるグリーンをテーマカラーとして使用していたところ、突然「テーマカラーをグリーンからレッドに変更してはどうか」という声が上がったら、どうすればよいでしょうか。当然、単に否定しても理解は得られませんから、デザインの軸を根拠にグリーンにすべき理由を説明しましょう。大切なのは「なぜこのデザイン なのか」ということを、クライアントとデザイナーの双方が軸に沿って正しく理解していることです。そうすることで初めて、デザインをよくするための良質な対話を行うことができます。 このように、軸をどの過程においても意識し続けることで、いいデザインをつくりあげることができるのです。資料潜在的なニーズを引き出し、デザインの軸を捉えるオリエンシートを活用する制作物のイメージラフや参考資料を用意するコンセプトに沿ってデザインを提案する複数案を出す場合はコンセプトに対するデザイン的アプローチが異なるものを提案11クライアントとデザイナーの双方でデザインの意図を軸に沿って正しく理解し仕上げていく軸を意識してさまざまな意見やフィードバックを受け止める いいデザインをつくり、そして提案を通すためには、デザインの目的と方向性を正しく捉えながら形にしていく過程が重要です。そのために「軸」という共通認識を持っておくことで、デザインに関する議論は、単なる好みの問題ではなく、より深いレベルでのコミュニケーションへと発展します。 本連載では、デザイン制作のプロセスにおいてコミュニケーションが果たす役割の大きさをお伝えしてきました。いいデザインは、デザイナーとクライアントが共に作り上げていくものです。対面・オンラインを問わず良質な対話を重ねることができれば、最終的に「以前より売上が上がった」「ブランドの認知度が上がった」「サイトへの問い合わせが増えた」といったように、見た人の心を動かし、クライアントの期待に応えられるような、双方にとって満足のいくデザインを生み出すことができるでしょう。(株式会社フジプラス)■ヒアリング、プレゼンテーション、ブラッシュアップの各段階で軸を意識することで、円滑かつ良質な対話ができ、クライアントの理解を得られやすい。■軸に基づいたデザインは、より大きな成果を生み出すことができる。実際の過程に沿って考えるまとめ■デザインの目的や方向性=「軸」を明確にし、デザインの根拠とする。ヒアリングプレゼンテーションブラッシュアップおわりに
元のページ ../index.html#11