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6Idea4U vol.212015 May これまで、データベースマーケティングの基本である個客識別マーケティングの意義や原則、具体的方法とその注意点などについて説明してきた。では、実際にどのように行われているのか。その具体例を紹介しよう。 オーストラリアのメルボルンに6店のスーパーを持つA社は、ポイントカードを使って顧客のデータを管理して、顧客ごとにサービスの対応を区別するプログラムを実施した。 導入のためにはまず顧客にカード会員になってもらう必要があるため、明るく社交的な従業員が店頭で楽しい雰囲気を盛り上げながら、来店客に声をかけて入会を勧めた。 このカードをレジの端末で読み込むと購入日時、購入した商品、金額等が記録される。その情報から以下のことがわかる。・日、週、月ごとの合計購入金額・主要10部門の部門別購入額内訳・各月ごとに発生した買物1件ごとのデータ(店名、来店日、時間帯)・その年の累積即時割引提供額 これにより約4万世帯の購買行動に関して幅広く、非常に価値のある情報が集まり、そこから重要なことがわかった。 毎日更新されるこれらのデータから顧客のセグメンテーションを行ったところ、店の売上に貢献している、ロイヤリティの高い顧客が20%弱、週平均購入額が9ドルしかなくてあまり貢献していない顧客も20%、そしてその中間の顧客が60%いることが明らかになったのである。 この60%の顧客はいわゆる「かけもち顧客」である。定期的に来店するが、全体におけるこの店での購入比率は高くなく、あちらこちらの店でバラバラに買い物をしている。この「かけもち顧客」をロイヤリティの高い顧客に格上げすることが重要であった。 そのために、A社はいろいろな方策を行った。ポイント・プレゼント カード会員は購入金額1ドルにつき1ポイントが付与され、ポイントを貯めるといろいろな景品と交換できる。 各店舗には「クオリティ・ギフトショップ」と名付けられた、ガラスとクローム製のイルミネーションがついた豪華なショーケースがあり、景品が交換ポイント表示とともに並べられている。ショーケースは入り口付近に置かれ、必ず来店した顧客の目に留まる。景品交換に必要なポイントを意識させ、買物を促進することが目的だ。 購入額の多い顧客ほど、豪華な景品を獲得できるため、他の店でも買っていた「かけもち顧客」もその店で購入するようになった。レターや電話で顧客とつながる ロイヤリティの高い顧客を増やすためには、他店への流出を防止するとともに、来店を促す必要もある。そこで、A社はカード会員のデータを使って、さまざまなシーンに合せたレターの形式をつくり、特定の顧客層に送付した。たとえば次のようなレターがあった。・トップクラスの顧客向けの感謝レター・6週間来店していない顧客向けレター・よく来店するが、特定の部門の商品を購入しない顧客向けレター・新規加入のメンバー向け歓迎レター レターを郵送する際には、来店を促すため、あるいは、顧客が買わない部門の商品を試してもらうために、ギフト券を同封する。その内容は、使わないと損だと感じるぐらいの魅力があるものだ。 また、毎日、各店舗で前日に購入額の多かった顧客5人に電話をかけて、感謝の意を伝える。その際に買物の感想や店に置いて欲しい商品の希望、店に要望する改善点を尋ねる。もし買っていない部門があれば、その理由もそれとなく探り、後でその売り場の商品のギフト券を送る。 同じ顧客に何度も電話をかけると迷惑なので、一度電話した顧客には一定期間が過ぎるまでかけない。 このように顧客に接することで、ロイヤリティ顧客を獲得することができた。 このプログラムを実施してからA社では単純な割引セールはほとんど行わなくなり、カード会員向けの割引を実施するようになった。商品棚には一般価格とメンバー向け価格の両方を表示し、カード会員になることのメリットを強調した。割引商品はパッケージ食品や雑貨類がデータベースマーケティングの基本個客識別マーケティングの重要ポイント【第5回】 売上を増加させたスーパーの実例顧客データから重要なことが判明「かけもち顧客」をロイヤリティ顧客に会員限定のサービスで顧客を離反させない

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